シングル『GO CRY GO』インタビュー
OxTと考える、“遊び心がなくなった”アニソンの現状&オーイシが味わった“流行という混沌”
今のアニソンには「“遊び心”がなくなってる」?
ーーなるほど。ではここで少しお互いの2017年を振り返っていただきたいです。オーイシさんにとって昨年はどんな一年でしたか?
オーイシ:僕は日の目を浴びることの多かった一年だったなと。よく言ってるんですけど、漢字一文字で表すなら「飛」。「飛び級」だったり「飛翔」の一年でした。自分が作品や歌が評価された年だと思います。
ーー作詞作曲した「ようこそジャパリパークへ」が大ヒットしましたよね。
オーイシ:正直、こんな大ごとになるとは……。まったく予想外でした。
Tom-H@ck:でも、関わっている人みんなそうだろうね。
オーイシ:ですね。逆に、僕が言うのも変ですけどTomくんはそれこそMYTH & ROIDでアルバムを出してヒットして、アーティストとしてTom-H@ckがもう一度評価された年だったんじゃないですか。
Tom-H@ck:そうかもしれないですね。
オーイシ:いや、本当にすごいことですよ。『けいおん!』で売れて、もう一度それと全く違うところで売れてるんですよ? この人はバカなんじゃないかと。
一同:(笑)。
Tom-H@ck:それこそMYTH & ROIDもそうですけど、アーティスト活動もしなきゃいけない、アイドルプロデュースもしなきゃいけない、会社経営もしなきゃいけない、プライベートもあるし、セミナーもあるし、っていう物凄いスピードで駆け抜けた年でしたね。それでこの前ご飯の席で「Tomくんは何してる時が一番幸せなんですか?」って聞かれたのがすごい印象に残ってて。その時にぱっと答えられなかったんです。それからいろいろと考えるようになって。身近な幸せだったり、今までないがしろにしていた感覚に気付けた年でもあったなと。
オーイシ:最近Tomくんを見てて変わったなと思うのは、休暇をちゃんと取るようになったこと。オン・オフのスイッチが明確にできるようになりましたよね。
Tom-H@ck:ああ、休みは取るようになったね。
オーイシ:ちゃんと人としての幸せを探す人になったんだなと。僕たちクラウド上でお互いのスケジュールを共有してるんですけど、2015年とか2016年あたりのTomくんは、泥になるくらい働いてたんですよ。それを見て僕が「どれだけ金と地位と名声があってもこれだけ時間がなかったら君はただのプアーな人間だよ」と言ったことがあったんです。
Tom-H@ck:言ってましたね。時間貧乏だって。
オーイシ:そうそう。で、2017年になったらそれが逆転して……。
ーー言った側の人がそうなってしまったと。
オーイシ:今、僕めちゃくちゃオフが欲しいんですよ!
一同:(笑)。
ーーお二方とも充実した毎日を送っているということですね。そういえば以前、お二人が2016年頃に「今のアニソンは過剰なものが飽和した」「楽曲に物語がなくなってきてる」と発言してる記事を拝見しました。
オーイシ:言いましたね、それもドヤ顏で。でも、そのあとヒット出したからめっちゃカッコいいじゃないですか!
一同:(笑)。
オーイシ:ヒット出した後にその発言してたらカッコ悪いですけど、前に言ってるから有言実行ですよ!
Tom-H@ck:たしかに。流れがちゃんとできてる。
オーイシ:その頃ってたしか、「構成が複雑なアニソンが増えてきたから何か違う新しいことをやりたいね」ってTomくんとも話してた時期で。時代って白が続くと黒を求めるようになって黒が続くと白を求めるようになってっていう、オセロみたいに反転していくものじゃないですか。例えば、MYTH & ROIDの「STYX HELIX」なんかは、複雑な構成というよりもシンプルで深みのあるサウンドで、ちょうどその発言した時期にヒットして、その後のアニソンの流れを作ったと思うんですよ。
ーーそれから2年ほど経った今現在のアニソンシーンを、お二人はどう見てますか?
オーイシ:もうね、わからないです(笑)。わからないのでとりあえず良い曲を作ろうと思って。ただひとつ言えることがあるとしたら、キャッチコピー的になったということかもしれません。サビでの一言だったりとか、いかに曲の中でこのフレーズが残るか。例えば「ようこそジャパリパークへ」だったら、<けものは居ても のけものは居ない>という言葉が一回聴いたら頭から離れなかったり。そういうパワーワードがある楽曲っていうのはブレないし、何年も歌われていくんじゃないのかなとは思います。
Tom-H@ck:僕は、すごい厳しい言い方ですけど……年々面白くなくなってるな、とは思いますね。たぶん“遊び心”がなくなってるというのもあるし、業界そのものが縮小しているというのもあるだろうし。ビジネスが縮小するとクリエイティブも縮小する、という問題はどうしても避けては通れないと思うんですけど。もしかすると、J-POPが歩んできた道を同じくアニソンも歩んでるのかもしれません。
でも、アニソンの分野には特殊なことが一つあって。それは何かって言うと、『けものフレンズ』だったらオーイシさん、MYTH & ROIDだったらTom-H@ckみたいな、そういうサウンドプロデューサーや音楽を操る人たちがパワーを持つジャンルなんですよ。業界がピンチになったときに、メーカーさんのプロデューサーが「ああしましょう、こうしましょう」とパワーを発揮するよりも、その現場で動いている音楽プロデューサーやクリエイターたちが「この業界どうにかしなくちゃいけないよね」って力を発揮した方が、そのピンチを乗り越えるスピードが早いと思うんです。だから、今のアニソンが面白くないなって感じていたとしても、曲を作ってる人たちが時代の流れを変えられるチャンスがあるのがアニソン業界なんですよね。そういう時代の変革が起きやすい市場だと思います。ただ、今はちょうどその“谷間”の時期なんだと思います。冷え込んでるとまでは言わないですけど、ちょっとぬるく感じてはいますね。