CHEMISTRYが、再び日本の音楽シーンを席巻し始めているーーその理由を多角的に検証

CHEMISTRY、音楽シーン席巻の理由

 思えばCHEMISTRYは、デビュー当初から規格外のユニットだった。

 2001年に川畑要と堂珍嘉邦が約2万人ものオーディションを勝ち上がり、全く知らない同士でユニットを組むという異色の成り立ちもさることながら、出会うべくして出会ったかのような見事な歌声を響かせ、1stシングル『PIECES OF A DREAM』からミリオンヒット。続く1stアルバム『The Way We Are』もトリプルミリオンを記録と、男性アーティストのデビューアルバムでは歴代1位となる快挙を成し遂げてしまった。現在までのCD累計売上枚数は1800万枚以上を誇る。

 なぜ彼らはデビューからわずかにしてこれほどの成功を収めることができたのか。それは2000年代初頭の音楽シーンを見れば一目瞭然。宇多田ヒカルや浜崎あゆみ、モーニング娘。ら女性アーティストがヒットチャートを賑わす中、男性で、なおかつR&B的な匂いを漂わせた「歌モノ」ユニットとしてデビューした彼らは新鮮にも映ったし、画期的だった。今でこそ、EXILEや三浦大知らブラックミュージックを取り入れた男性アーティストはスタンダードとなったが(思えば清木場俊介、EXILEのATSUSHIとNESMITHも「ASAYAN」の同企画の出身者!)、それもCHEMISTRYによって道が切り拓かれた面は多分にあると思われる。そして同時に、新たな時代の音楽を受け入れる聴き手の耳も養ってきたのではないだろうか。

 それだけに、再始動を宣言した際のニュースは、異様なほどの熱狂を持って迎えられ、2月に行われた約5年ぶりのワンマンライブ『CHEMISTRY LIVE 2017 - TWO - 』のチケットは15分で完売。2日間で1万人を動員する盛況ぶりで“CHEMISTRYここにあり”を堂々と宣言してみせた。以降はTVの音楽番組にも積極的に出演。再始動後、初のTV出演となった『ミュージックステーション』(テレビ朝日)でのパフォーマンスは、その「色褪せなさ」に心が震えた。ピースがピタリとはまったかのような完璧な掛け合いは、5年のブランクなどまるでなかったかのようで、改めてふたりのボーカリストとしての力量を感じさせるに十分だった。SNS上でも、「久しぶりのCHEMISTRYに泣いてる」など絶賛の声が相次ぎ、その後も地上波音楽特番に出演する度にトレンド入りを果たす事態となっている。これは、青春時代を共に過ごした「CHEMISTRY世代」と呼ばれるファンはもちろんのこと、リアルタイムではなかった10~20代にもその音楽が支持されている証拠。私たちが彼らの歌声を初めて耳にした感動をそのまま、若者たちも感じることができているのだろう。 “CHEMISTR第2章”ともいうべきスタートは、新たなファンをも巻き込みながら華々しく幕を開けたのだ。

 彼らの持ち味といえば何と言ってもその美しいハーモニー。“歌で化学反応を起こす”というユニット名の通り、堂珍嘉邦のクリアで艶のある歌声と川畑要のエモーショナルかつ圧倒的な声量は、重なり合った時に唯一無二の響きをもって聴く者を魅了する。

 11月にリリースされた6年ぶりのシングル『Windy/ユメノツヅキ』は発売週にiTunes総合チャートで2位を記録し、ファンの期待の高さを知らしめた。「Windy」はR&Bの匂いを色濃く残しながらも爽やかさを兼ね備えた1曲、そして「ユメノツヅキ」はファンキーなギターカッティングにふたりの掛け合いが絶妙にこだまする。それぞれのパートを歌い継ぎながら、サビでハーモニーに昇華させるという“CHEMISTRYスタイル”も健在だ。どちらにも共通するのは、ふたりの歌唱力を存分に引き出した安定感のあるサウンドメイク。現在のJ-POPのトレンドのひとつである、シティポップや90年代リバイバルなムードを感じさせつつも、単なるスタイルに陥ることなく、あくまで“歌”そのものをシーンに刻みつけようとしている。思えばふたりの楽曲は、デビュー時からヒット曲の枠を超えて、時代の空気感や若者たちの心情を代弁するような芯の強さを感じさせるものであった。再始動にあたってリリースされたこの2曲も、いずれ振り返った時に確かな存在感を伴って、人々の記憶に残っていくに違いない。そしてその上で次世代の音楽シーンをも担っていくものとなるだろう。

 そして今回の再始動にあたり、忘れてはならないのが、CHEMISTRYの生みの親とも言えるプロデューサー、松尾潔の存在だ。デビュー初期を支え、その音楽性を確立した彼が今作でほぼ15年ぶりにプロデューサーに復帰したのだ。ふたりの歌唱に古巣に帰ったようなリラックスしたムードが漂っているのはそのせいだろう。レコーディングを振り返った松尾氏は、「ふたりが初めて声を重ねた瞬間に私は『あ、ケミストリー!』と思わず叫んでしまったんですよ。やはりこのふたりの組み合わせはスペシャルだと痛感しました」とコメント。6年の間にふたりがそれぞれ歩んできた道で新たに手に入れた武器を手に、再び彼の元に戻ってきたというのは象徴的なことではないだろうか。決して6年前の続きではない。ましてや過去をなぞるのでもない。より進化し、パワーアップしたCHEMISTRYの新章がここから始まるのだ。

 現在は『CHEMISTRY LIVE TOUR 2017-18「Windy」』がスタート。新生CHEMISTRYの音楽を日本全国へと届けに行く。新たな時を刻み始めた彼らの歌声が、再び日本の音楽シーンを席巻し始めている。

■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。

■リリース情報
『Windy / ユメノツヅキ』
2017年11月15日 発売
価格:初回生産限定盤(CD+DVD)¥4,800(税込)
通常盤(CD)¥1,300(税込)
期間生産限定盤(CD)¥1,000(税込)
〈収録内容〉
【初回生産限定盤】
CD
1.Windy
2.ユメノツヅキ

DVD
再始動ライブ『CHEMISTRY LIVE 2017 -TWO-』@東京国際フォーラム  
2017年3月1日のライブ映像を全24曲、完全収録
※CHEMISTRY堂珍・川畑による副音声入り

【通常盤】
CD
1.Windy
2.ユメノツヅキ
3.未定
4.ユメノツヅキ(Slow & Emotional)

【期間生産限定盤】※アニメ「将国のアルタイル」描き下ろしジャケット
CD
1.Windy
2.ユメノツヅキ
3.未定
4.Windy(89sec TVサイズ)

■ツアー情報
『CHEMISTRY LIVE TOUR 2017-18 「Windy」』
〈2017年〉
12月4日(月)神奈川・川崎市スポーツ・文化総合センター
12月5日(火)東京・中野サンプラザホール
12月17日(日)静岡・裾野市民文化センター 大ホール

〈2018年〉
1月7日(日)埼玉 大宮ソニックシティ 大ホール
1月8日(月・祝) 愛知 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
1月13日(土)福岡 福岡国際会議場 メインホール
1月15日(月)京都 ロームシアター京都 メインホール
1月16日(火)滋賀 滋賀県立文化産業交流会館
1月27日(土)宮城 仙台銀行ホールイズミティ21(大ホール)
2月2日(金)福島 郡山市民文化センター 大ホール
2月4日(日) 千葉 君津市民文化ホール 大ホール
2月24日(土)島根 島根県芸術文化センター「グラントワ」 大ホール
2月25日(日)広島 JMSアステールプラザ 大ホール
3月3日(土)兵庫 たつの市総合文化会館 赤とんぼ文化ホール 大ホール
3月4日(日)大阪 オリックス劇場
3月7日(水)東京都 Bunkamura オーチャードホール

■関連リンク
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