ヴィジョニスト『Value』は“エレクトロニカの変容と進化”を示す重要作 小野島大が選ぶ新譜13枚
2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニック・ミュージック関連の新譜の中から目についたものを挙げていきます。
サウス・ロンドン出身のプロデューサー、ヴィジョニスト(Visionist)の2年ぶり2作目が『Value』(Big Dada)。FKAツイッグスのツアーにも同行して名を挙げたこの鬼才の新作は、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやアルカ以降のエレクトロニカの変容と進化を鮮やかに示す重要作にして圧倒的な傑作です。アンビエント、インダストリアル、ダブ、ポスト・クラシカル、ノイズ・アヴァンギャルド、エレクトロニックR&Bなどが閃光のように交錯する、耽美的にして暴力的な異形の音響アートとも言うべき世界は、切り立った断崖絶壁に佇むような切迫した緊張感を伝えてきます。前作よりさらに激しく、さらに美しく、さらに劇的になった圧巻のサウンド。鼓膜が破れるような大音量で聴きたい作品です。
LAのビート・メイカー~シンガー・ソングライターのバス(Baths)の新作が『Romaplasm(ロマプラズム)』(Anticon/Tugboat Records)。才気が迸る素晴らしい傑作になりました。大病を患った経験を作品化した前作が“死”をテーマにしたダークでディープな作品だったのに対して、今作は陽性のエネルギーと解放感溢れるポップなアルバムとなっています。べたつかないクールな叙情性と温かみのあるエレクトロニックなサウンド、メランコリーを微かに漂わすボーカルと優美なメロディ、ポップとエクスペリメンタルを往還するシンプルだが計算されたアレンジ、練り込まれた音色など、あらゆる点で前作よりも進化したと言い切れる見事な作品です。特にポップソングとしての完成度が格段に向上しているのが素晴らしい。個人的にはかつてのトーマス・ドルビーを思い出しました。
スペインはバルセロナのDJサインフェルド(DJ Seinfeld)の1stアルバム『Time Spent Away From You』。ロンドンのロウハウス・レーベル<Lobster Fury>からのリリースです。荒々しい音色とタフなグルーヴ、都会的な洗練と叙情が見事に同居したディープ・ハウス・トラックは圧巻の一言。今年のダンス・ミュージックを代表する一作となるでしょう。
4ヒーローのディーゴと、BUGZ IN THE ATTICのメンバーとしても知られるカイディ・テイタムによるデュオ、ディーゴ&カイディ(Dego & Kaidi)の待たれていた1stアルバム『So We Gwarn』。セオ・パリッシュの主宰するレーベル<Sound Signature>からのリリースです。70年代ジャズ・ファンクを基調にヒップホップ、アフロ・ビート、ソウル、ラテン、ドラムン・ベースなどをミクスチャーしたオーガニックでパワフルなダンスミュージックで、90年代のアシッド・ジャズ全盛期を思わせる瑞々しいエネルギーに満ちた傑作です。私は配信で買いましたが、ヴァイナルで聴くと映えそうなサウンドでもあります。Apple MusicやSpotifyでは今のところ聴けないようです。