ヴィジョニスト『Value』は“エレクトロニカの変容と進化”を示す重要作 小野島大が選ぶ新譜13枚
英バーミンガム生まれ、ロンドン在住のプロデューサー、リー・ギャンブル(Lee Gamble)の3年ぶり新作『MNESTIC PRESSURE』は、コード9主宰の<Hyperdub>と契約しての一作。もともとジャングルやレイヴ・ミュージックからスタートした人ですが、本作ではドラムンベースを変形したような変則的ブレイクビーツ、ダブ・テクノやインダストリアル、ドローン~アンビエント、IDM系エレクトロニカからノイズ・アヴァンギャルドまで拡張した幻惑的なエクスペリメンタル・テクノを展開しています。何度聞いても底が見えない深い井戸のような作品。
ベルリンの地下シーンから現れた鬼才レッドハット(Rødhåd)の1stアルバムが『ANXIOUS』(DYSTOPIAN)。ジャケット写真が示す通りのダークでディープでヒプノティックで禍々しいサウンド、ストイックでモノクロームな雰囲気がたまらない現代アンダーグラウンド・テクノの最前線です。意外にリズムのバリエーションも多く、起伏に富んだ展開もあり、ダンス・フロアの道具にとどまらないリスニング向けとしても秀逸なアルバムです。Apple MusicやSpotifyでは今のところ聴けないようです。
UK出身、ベルリンを拠点とする電子音楽家、コール・スーパー(Call Super)の2ndアルバムが『Arpo』(HOUNDSTOOTH)。ちょっと初期のケンイシイを思わせるような静謐で繊細なミニマル~エレクトロニカ~アンビエントで、ゆったりと浮遊するような電子音は、ノスタルジックでセンチメンタルな側面とクールで未来的な響きが背中合わせになっていて、とても魅力的です。
ポップでカラフルな傑作『A Mineral Love』を出したばかりのビビオ(Bibio)の新作が『Phantom Brickworks』(Warp / Beat Records)。前作とは打って変わって、雨垂れのような官能的なピアノや弦楽器、シンセサイザーの音が静かに鳴り続ける完全なアンビエント・アルバムですが、これが実に素晴らしい。遠い彼方から乱反射した残響音がいつまでも鳴り続けている幻惑的な空間の中で白昼夢を見ているようなサウンドは、歌詞も歌もないのにエモーショナルで思索的。ビビオの内面が深いところから滲み出てくるような作品で、どこかノスタルジックでセンチメンタルなムードを漂わせているのは、ビビオのどの作品にも共通するもの。その意味で、これは『A Mineral Love』同様に重要なアルバムと言えます。
ではまた次回。
■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebook/Twitter