ベスト盤『ザ・月亭可朝ベスト+新曲』インタビュー
月亭可朝、「嘆きのボイン」誕生秘話を語る 「エロいことは一言も言うてへん」
「嘆きのボイン」で知られる上方落語界の異端児、月亭可朝のベスト盤『ザ・月亭可朝ベスト+新曲』が11月15日に発売される。大ヒット曲「嘆きのボイン」はもちろん、代表曲の「出てきた男」や、早すぎたラップ曲「ミスター・チョンボ」のオリジナルバージョンから、豊田道倫がプロデュースしたセルフカバー2曲と新曲、さらに歌の前の小噺、Talkが収録され、聞きどころ満載の1枚となっている。
まずは媒体の説明から始めたが……いきなり逆質問されてビビってしまう展開に。リアルサウンドに伝説の芸人がやってきた。(谷岡正浩)
歌とはまったく関係のない講演に行ってもね、「ボイン歌ってくれ」って
月亭可朝:今、歌はどないなってんのん? 演歌ではなくなってんの?
ーーあ、もちろん演歌もあるんですが、リアルサウンドは、どちらかというとロックやヒップホップ、あるいはアイドルといったジャンルを取り上げることが多いですね。
月亭可朝:そういう人らが多いんやね。
ーーそうですね。
月亭可朝:ふうん。ええんかいな、そんな中でこないな老人が。
ーーいやいや、そりゃもう、よろしくお願いします。
月亭可朝:こんな80になろうかっちゅうオジンが、こんなところに出るなんてないもんな。
ーーそれだけ師匠のベスト盤が注目されているということでーー。
月亭可朝:わし、天皇陛下と5つ違いや。
ーーそう言われると、レジェンド感が増しますね(笑)。
月亭可朝:天皇陛下は昭和8年生まれ。せやから藤本義一さんなんかと一緒やな。
ーー師匠は、昭和13年生まれ、ということですよね。
月亭可朝:せや。おたく何年生まれや?
ーー僕は、昭和47年です。
月亭可朝:ほう……(長い間)……。
ーーあ、あの、どうかされました?
月亭可朝:いや、わしの息子を基準に勘定しとったんやけどな。息子も娘も芸能界とは何も関係あらへんところに行ってくれたから、良かったわ。こないなとこ入られたらかなわんで。
ーー(笑)。ところで師匠、ギターケースが傍に置いてありますが、いつも持ち歩いてらっしゃるんですか?
月亭可朝:いや、昨日な、テレビの仕事があったもんやから。そのテレビの人間がやね、こない言うわけや。「師匠、ギターを持ってきてくれますか?」。そんなもん持って行きますよ、と。「それと、カンカン帽も持ってきてくれますか?」。なんでそないなこと言われるかと言うとやね、しばらくテレビはご無沙汰してたから、わかりやすいイメージ言うんかな、まあ心配したんやろうね。普段着のまま野球帽でもかぶって来られたらどないしょ、と。
ーー普段ギターは弾かれるんですか?
月亭可朝:あんまり弾きません。せやけど歌とはまったく関係のない講演に行ってもね、「ボイン歌ってくれ」って言われますねや。せやからいつも持っていくんですわ。ほんで、必ずあるのは、カンカン帽くれませんか? いうやつや。ええよ、言うてあげまんねん。カンカン帽、家に50コくらいありますわ。四国の高松で作ってますねん、これ。ほんでダンボールにぎょうさん入れて送ってくるんですよ。サイズがバラバラに入ってるから、合うやつだけ引きとって送り返しますねん。ほんならその分だけ請求書来ますわ。
ーーカンカン帽は若い人たちの間でファッションアイテムになっていますよ。
月亭可朝:せやねん。なんかの雑誌に書いてあったわ。“可朝ビックリ!”いうて。
ーーCDを出すのは何年ぶりになるんですか?
月亭可朝:CD言うてそんなもん、わしらの頃はLP言うてましたから。それに何をいつ出したとか、あんまり首突っ込んだこともないから、何が売れましたとか、これはもうひとつ売れませんでしたとか、そんな感じで今まで来ましたから、ようわかりませんねん。
ーー今回はどういう経緯で?
月亭可朝:それはね、浅草の東洋館(浅草フランス座演芸場東洋館)に出演しとった時にね、ある人が会いたい言うてますよって紹介されて会うたのが豊田(道倫)さんやった。ふっと楽屋へ飛び込んで来てね、とらやの羊羹持って。まあきっちりした人でな。ペラペラ喋るだけの心のない人やなしに、口数は少ないけどちゃんとした人ですわ。
ーー最初に豊田さんと会われた時はどういう話をされたんですか?
月亭可朝:豊田さんに言われたんは、大阪にもこういう噺家さんいるんやなあ、いうて。まあそない言われても、俺はずっと大阪の芸人やからおって当たり前やと(笑)。その時に、もし歌作るんやったらどんな歌がええかなあって話した記憶がありますわ。男女のいきさつの歌を作るやなんや言うてて、わしは北朝鮮の歌を作りたい言うたら、ええ! 北朝鮮!? ってなったけども、そのうちに彼から「北朝鮮できたか?」って催促が来るようになった(笑)。わしも言うたはええけど作らなあかん思て。
ーーじゃあその出会いがきっかけで、久しぶりに歌を作ったわけですか?
月亭可朝:そうです(※「いってる北朝鮮ep」として7月7日に自主レーベル〈ハプニング〉からリリース)。せやけど普通は北朝鮮やと言うとな、尻込みするわな。今あんな状態やし。まわりの国との関係も良くないわな。そんな中でやったら、何をどういう因縁つけられるかわからんし、なかなか触りにくいですわ。しかしな、“北朝鮮”という、そんな触りにくいところが、可朝には合うんやないかと思ったんや。昔はボインやオッパイや言うたら、みんなそんなもん歌にしませんでしたもん。それを歌にすんのはやっぱり可朝みたいなワルでやんちゃな奴が作ってはじめて合った、いうのがあったわけですな。
ーーなるほど。あと、今回のベスト盤には「寝るに寝られん子守唄」が書き下ろしの新曲として入っていますね。
月亭可朝:ああ、あれな。相撲甚句いうのがありますわな。
ーーええ。
月亭可朝:哀愁があってね、好きなんですわ。(相撲甚句を一節やる)。そのメロディが子守唄に合うなあと思てね。それで作ったんですわ。