BLACKPINKは強く美しい“ソルジャー”だ! 日本のポップシーンを刺激する初ショーケース
会場を埋め尽くした14,000人のファンの応援コールが絶叫に変わり、ステージ上にせり上がった巨大なLEDウォールに映し出されたカウントダウンがゼロを示した時、THE BEATLESから始まった武道館におけるポップミュージックのステージの歴史に、新たな一ページが書き加えられた。30分間、1800秒の衝撃。7月20日に開催されたBLACKPINKの日本初のショーケース『BLACKPINK PREMIUM DEBUT SHOWCASE』は、その一秒一秒が日本におけるガールズポップの在り様を更新する、正に奇跡そのものだった。
日本ではマスコミ向けの「お披露目」程度に認識される「ショーケース」。こと韓国においては新曲の発売の度に行われる最も重要なイベントのひとつとして一般化している。プレス関係に加えて多くのファンも参加するその現場では通常、新曲の初パフォーマンス、メンバーへのインタビュー、メンバーとファンの交流コーナーなどが実施され、最近ではV LIVE(日本におけるLINE LIVE)経由で生配信も行われる。このショーケースの出来如何で新曲に対する評価がほぼ決まってしまうこともあり、ガールズグループの場合などは、終わった瞬間に緊張の糸が解け、メンバー全員泣き崩れるといった様子も見られる。「ショーケース」はいわば、芝居の初日、映画の公開日と同じくらいの意味を持つ正念場なのである。
本国ではシリアスな一大イベントだが、日本において「ショーケース」の名のもとに来日したアーティストがこれまで行ってきたものの大半は、どちらかというとファンとの交流会、ファンクラブイベントに近い性格の"ユルい系"のものだった。正直今回、BLACKPINKがショーケースを行う、しかもデビュー前に、さらに武道館で! と最初に聞いた時、その規模とタイミングの必然性をイメージすることが難しかった。しかしそんな心配は、まだ開演前の会場に到着した瞬間に消え去ってしまった……。
武道館を取り囲む大勢の人、それもその9割は10代から20代の女の子たち。そんな光景はBLACKPINKの先輩グループでもある、同じYGエンタテイメントのBIGBANGやiKONといった人気グループのライブならありふれた光景だが、これはまだデビュー前のグループのイベントなのだ。さらに客層を見て驚いたのはその多様性。所謂"ゆめかわいい"系女子からBLACKPINKがエンドースしているハイファッション系ブランドを身にまとった女性たちまで、日本のガールズファッションの見本市的なカオス状態がそこに出現していた。
そうした彼女たちの佇まいに加えて、このショーケースが明らかにこれまでのガールズグループのものとは別格なものと確信したのは、入場を待つ彼女たちの表情を見た時である。BLACKPINKを初めてナマで見ることができる、という興奮が見え隠れするのは当然だが、武道館の建物を見つめる彼女たちの瞳には"決意"のようなもの、"使命感"と言い換えてもいいような真剣さが一様に宿っていたのだ。
一体BLACKPINKの何がそこまで彼女たちを駆り立てるのか? 僕はそんな目の輝きを目の当たりにして、ある映画を思い出していた。その作品とは『ワンダーウーマン』。アメコミにおいても希な女性の主人公ダイアナを主役においた同作は、ほぼ男子で占拠されるコミックオタクの枠を越え、ダイアナの生き方に共感する女の子たちを大挙して劇場へと動員し、公開前の予想を覆す大ヒット作へと踊り出た。
映画史において最も新しくて最も美しく、そして最も凛々しい女性像を作りあげた作品が『ワンダーウーマン』であり、主人公のダイアナは劇中で堂々とこう宣言する。
「強くなくてはならない 正しくなくてはならない 美しくなくてはならない そして愛だけが私たちを救うのです」
耳をつんざくほどの轟音でのオーバーチュアや光の洪水と共に登場したJENNIEが、いままで韓国におけるどんな番組でも見せたことがないような力強い口調で「WHAT'S UP JAPAN? ARE U READY!!」と叫んで「BOOMBAYAH」のイントロが鳴り響いたとき、僕はこのショーケースを見に来た女の子たちの「眼差し」の意味が分かってしまった。
BLACKPINKとは今を戦う女の子たちにとって、最も強く最も美しくそして凛々しいワンダーウーマン的な「ソルジャー」なんだ、と。