「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第32回 フィロソフィーのダンス『Do The Stand VOL.1』
フィロソフィーのダンスが1stワンマンで提示した、「アイドル」というフォーマットの先
2016年にアイドルをやるのならば、「アイドル」というフォーマットが衰退した後のことまで見据えてやる必要がある。2016年11月20日に原宿アストロホールで開催されたフィロソフィーのダンスの初めてのワンマンライブ『Do The Stand VOL.1』を見て考えたのは、そんなことだった。
フィロソフィーのダンスが初めてステージに立ったのは2015年8月6日。ウルフルズ、氣志團、ナンバーガール、Base Ball Bear、相対性理論などを世に送り出してきたプロデューサー・加茂啓太郎がプロデュースするアイドルグループである。彼はソロアイドルの寺嶋由芙は手掛けていたが、アイドルグループを手掛けるのはフィロソフィーのダンスが初めてだった。
フィロソフィーのダンスのメンバーは、奥津マリリ、佐藤まりあ、十束おとは、日向ハル。私は2015年8月6日のデビュー・ライブを見ているのだが、そのときはメンバーが踊りながら歌うことにまだ慣れていないことがわかるような状態だった。2015年12月20日にはデビュー・シングル『すききらいアンチノミー』をリリースしている。
当初こそぎこちなかったフィロソフィーのダンスだが、多数のライブに出演していくうちにみるみる成長し、2016年5月15日にセカンド・シングル『オール・ウィー・ニード・イズ・ラブストーリー』をリリースする頃には、ライブで楽曲群を歌いこなすたくましいグループになっていた。
2016年8月5日からは3日間『TOKYO IDOL FESTIVAL 2016』に初出演したが、初日のSKY STAGE(フジテレビの湾岸スタジオの屋上である)での、夕暮れから夜になるタイミングのシチュエーションを完全に味方につけたライブの興奮は忘れ難い。そのシチュエーションに合わせて、フィロソフィーのダンスはファンク濃度の高い楽曲群によるセットリストを組んできたのだ。
「ファンク」と書いたが、フィロソフィーのダンスのそもそものコンセプトは、アイドルにファンクを歌わせるというものだった。そうしたブラック・ミュージック色の濃いアイドルグループは過去にもいたが、加茂啓太郎がこだわったのは「しっかりと歌えること」だった。そのために、初期のフィロソフィーのダンスは、奥津マリリと日向ハルがメイン・ボーカルであるというスタイルが現在よりも明確だった。公式サイトにはこう記されている。「思想的には哲学を、音楽的にはFunky But Chicをキーワードに本籍はアイドルに持ちつつ、全ての音楽ファンに愛されるグループを目指します」。
作家陣には、ヤマモトショウ(SOROR/うそつき・トマト/ex.ふぇのたす)、rionosといった寺嶋由芙にも楽曲提供をしている顔ぶれのほか、初めて見る名前があった。新鋭の宮野弦士である。彼と初めて出会った2015年の暮れ、宮野弦士はまだ21歳だったはずだ。その21歳が作編曲を担当した「すききらいアンチノミー」は、ナイル・ロジャースを彷彿とさせるギターのカッティングやストリングの配し方で、それに乗せてフィロソフィーのダンスが歌うことによって何か「異変」が起きたと感じたものだ。ポップスにはいつマジックが発生するのかわからないものだ、と。
デビュー・ライブから1年3カ月以上を経てファーストワンマンライブというのは、決して早い進み方ではないだろう。フィロソフィーのダンスは、その間定期公演はしても、ワンマンライブをしなかった。それはまるで、じっくりとスープを煮込むかのように機が熟するのを待っているように見受けられた。
そして、満を持して開催されたフィロソフィーのダンスのファーストワンマンライブは、当日を待たずにチケットがソールドアウト。その直前には、11月14日の『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で平成ノブシコブシの徳井健太がフィロソフィーのダンスを紹介し、さらに同じ日には『週刊ヤングマガジン』(講談社)に奥津マリリの水着グラビアが載るなど、追い風がもはや暴風状態となっていた。さらに、ワンマンライブはファースト・アルバム『FUNKY BUT CHIC』の先行販売の場でもあった。
開演前に会場に流れていたのは、ワイルド・チェリーの「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」や、プリンスの「1999」など。そして、ステージに張られていた幕が落ちると、背後からのライトを浴びた4人のシルエットが浮かびあがった。
1曲目は「アイドル・フィロソフィー」。この楽曲は『FUNKY BUT CHIC』収録曲で、ライブではまだ歌われていなかったため、ワンマンライブでいきなり新曲初披露となった。イントロで日向ハルの声が雄大に響くのに続けて、十束おとは、佐藤まりあ、奥津マリリとボーカルが入れ替わっていき、サビで日向ハルが歌いあげる。4人の声質やキャラクターをよく考慮してパート割りしているのはフィロソフィーのダンスの特徴だ。声を大きく出しても繊細さを失わない奥津マリリのボーカルと、声量が迫力を生む日向ハルのボーカルのコントラストが鮮やかな楽曲でもある。
前述のように、アイドルにファンクを歌わせるというコンセプトだけに、フィロソフィーのダンスはブラック・ミュージックの要素が濃い。「コモンセンス・バスターズ」はファンキーだし、「VIVA 運命」や「好感度あげたい!」はさらにファンク度が高い。「プラトニック・パーティー」や「アイム・アフター・タイム」はソウルフルだ。「熱帯夜のように」や「ソバージュ・イマージュ」には、エレクトロファンクという言葉が頭に浮かぶ。「オール・ウィ・ニード・イズ・ラブストーリー」は、モータウン・サウンドにしてアメリカ南部の香りもする。