柴那典のスヌープ・ドッグ『BUSH』レビュー
ファレルはなぜスヌープを敬愛してやまないのか? スヌープ新作で全面タッグの背景
「スヌープの新作は自分のアルバムより良いよ」
5月20日にリリースされるスヌープ・ドッグの新作『BUSH』について、ファレル・ウィリアムスは、こんな風に語っている。シーンを席巻したダフト・パンク「ゲット・ラッキー」やロビン・シック「ブラード・ラインズ~今夜はヘイ・ヘイ・ヘイ」のコラボに続き、昨年にリリースしたソロアルバム『ガール / GIRL』では世界中に「ハッピー」旋風を巻き起こす大ヒット。グラミー賞11冠。いまや「全てを手にした男」となった、あのファレルがである。
事実、多忙を極めるファレル自身にとっても、スヌープ・ドッグの新作はかなり力を入れたプロジェクトとなっていることは間違いない。アルバム『BUSH』では、アルバム全体のプロデュースに加え、全ての楽曲のソングライティングに携わり、うち5曲でバック・ヴォーカルに参加している。アルバム一枚にわたってガッチリとタッグを組んだ形だ。
では、何故ここに来てスヌープとファレルは手を組んだのか? 「俺とファレルは深い友情で結ばれているんだ」とスヌープ・ドッグ自身が語る相思相愛の関係は、アルバムにどう結実したのか? 今回の記事ではそのあたりを分析していきたい。
というのも、新作『BUSH』は、かなり壮大なテーマを読み解くことができるアルバムになっているのだ。全世界3500万枚セールスを誇るラッパーと当代随一のプロデューサーという大物タッグにしか成し得ないような「時代を超える」スケールの作品になっている。
一言でいうと、それは70年代と2010年代を繋ぐ「西海岸ファンク〜ヒップホップの一大絵巻」である、ということ。豪華なゲスト陣が参加している一枚なのだが、それは単なる賑やかしではない。ちゃんと意味が込められているのだ。
まずその一つ目は、ここ数年のアメリカのポップ・シーンにおけるソウル/ファンク/ディスコ回帰(まさにファレルがその最大のキーマンである)の流れに対して真っ向から「本物」を突きつけるようなアルバムになっている、ということ。
アルバムのリードシングル「ピーチズ・アンド・クリーム」が象徴的だ。この曲にフィーチャリングされているのは、チャーリー・ウィルソン。70〜80年代のファンクの伝説的存在、ギャップ・バンドのメンバーである。
最近では2015年最大のヒット曲であるマーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズ「アップタウン・ファンク」の作曲者に名を連ねたことでも話題を呼んだチャーリー・ウィルソン。現在62歳となる彼だが、ここ数年もスヌープやカニエ・ウェストとのコラボを繰り広げ、今年1月にはソロアルバム『フォーエバー・チャーリー』をリリースしたばかり。現役バリバリのR&Bシンガーとして最前線で活躍している。
そして、こちらも「生きる伝説」であるスティービー・ワンダーがアルバムの1曲目「カリフォルニア・ロール」に参加。ハーモニカと歌声を聴かせている。
公式コメンタリー映像によると、この曲はもともとファレルが自分のアルバムのために作った曲だったそう。LAでスタジオ入りした時にスヌープが直接スティービー・ワンダーに電話すると「わかった、すぐそっちに行く」と一時間後に準備万全で現れたそうだ。
ファレルとスティービー・ワンダーは、昨年のグラミー賞の授賞式でダフト・パンクと共に「ゲット・ラッキー」をパフォーマンスしたことも記憶に新しい。今度はスヌープを軸にしたコラボでリラクシンなファンクを形にしたわけだ。