川谷絵音の音楽活動が再び活発に ゲスの極み乙女。とDADARAYが備えた“時代性”を検証

 ゲスの極み乙女。(以下、ゲス乙女)の活動再開を契機に、川谷絵音周辺の動きが活発化しつつある。発売延期になっていたゲス乙女の3rdアルバム『達磨林檎』は5月10日に発売され、バンドは同日にZepp Tokyoで復活ライブを開催したが、その手前に休日課長は新プロジェクトDADARAYをスタート。4月から6月にかけて3か月連続でミニアルバムを発表し、7月には全国ツアーも開催する。

 また、川谷と課長はボカロPユニット・学生気分を結成し、『達磨林檎』収録の「小説家みたいなあなたになりたい」のVOCALOIDバージョンをニコニコ動画にアップ。一方、ちゃんMARIはiki orchestraのメンバーとして、Rei、日向秀和、中村達也と共に『ARABAKI ROCK FEST.17』に出演し、ほな・いこかは「さとうほなみ」名義での女優活動開始を発表と、多彩な動きを見せ始めている。

 おそらく、今後もゲス乙女のメンバーはそれぞれのキャラクターを生かし、活躍の場をさらに広げていきそうだが、ここでは『達磨林檎』とDADARAYの3枚のミニアルバムから、彼らの音楽的な現在地を確認しておきたい。

ゲスの極み乙女。『達磨林檎』

 『達磨林檎』は当初昨年11月に配信、12月にCDでのリリースが予定されていた作品で、近年のゲス乙女の特徴であるスタジオ内での即興的な曲作りをベースとし、前作『両成敗』同様に幅の広い13曲が収録されている。ただ、1曲目の「シアワセ林檎」に代表される、音数を絞ったある種のストレートさがアルバム全体の基調になっていて、中には「私以外私じゃないの」にも通じる単音フレーズが印象的な「勝手な青春劇」のような曲もあるものの、全体的にギターの割合は少なく、4つ打ちを基調とした踊れる作風だと言えよう。

 となると、改めて注目されるのがほな・いこかのドラム。常々Tower of Powerを影響源に挙げる彼女のプレイは、ロック的なダイナミズムと16分の細やかなハイハット使いを併せ持ったファンクビートが特徴で、課長のグル―ヴィーなベースと共に、バンドの屋台骨を担っている。一方、打ち込みを基調とした「いけないダンスダンスダンス」に代表されるように、SPD-SXを用いたプレイも要所で披露され、ちゃんMARIのクリアな音色のシンセも含め、クラブミュージックに対する視点も確かに感じられる。

 個人的なハイライトとしては、12曲目の「Dancer in the Dancer」を挙げよう。ゲス乙女の表の顔が“ダンス”であるとするなら、裏の顔である“メランコリー”が強く表出したこの曲は、歌詞やメロディの素晴らしさもさることながら、近年のジャズやヒップホップとの同時代性を感じさせるドライな音色のリズムが非常に印象的な仕上がり。ゲス乙女の作品のエンジニアを務めているのはtoeの美濃隆章で、ポストロック世代であると同時にネオソウル世代でもある彼は、Chara×韻シストの『I don't know』やLUCKY TAPESの『Cigarette & Alcohol』も手掛けているように、こういった曲調との相性は抜群である。ゲス乙女はもともと「ジャズ」がひとつのキーワードになっていたが、国内外におけるブラックミュージックの隆盛を経て、日本でSuchmosがブレイクを果たした今年、その橋渡しとなったのが彼らの存在であったという見方もできるように思う。

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