金子厚武のプレイヤー分析
川谷絵音の音楽活動が再び活発に ゲスの極み乙女。とDADARAYが備えた“時代性”を検証
「大人な雰囲気を感じさせる上質なポップス」を軸とするDADARAYは、休日課長の他に、女性ボーカルのREIS、ゲス乙女やindigo la End(以下、インディゴ)でコーラスを担当するえつこの3人がメンバーだが、インディゴの長田カーティスと佐藤栄太郎、えつこと共にゲス乙女やインディゴのコーラスを担当するささみおがサポートを務め、楽曲は川谷が手掛けているため、「川谷プロデュースの女性ボーカルユニット」と言った方がしっくりくる。となれば、「上質なポップス」でありつつ、やはりアレンジはかなりエッジが効いていて、「変態的なプログレポップス」の顔も持ち合わせている。
こちらもドラマーに注目をしてみると、佐藤もほな・いこか同様に、オルタナ感のある獰猛なプレイと、16分のシャープなプレイを併せ持つタイプで、川谷の好みが伺えるというもの。そして、インディゴが「ギターロック」としての側面を持っているのに対し、DADARAYは基本「ポップス」ということもあり、特に強調されるのは後者の側面。佐藤はもともとMISTAKESのメンバーとしてR&Bやヒップホップ的な楽曲をプレイしていたため、「ダダイズム」(1stミニアルバム『DADAISM』収録)における今様のヒップホップに通じる訛ったリズムはある意味では真骨頂だ。
また、「Breeze in me」(2ndミニアルバム『DADAMAN』収録)で聴くことのできるドライな質感のドラムは、前述の「Dancer in the Dancer」に通じるもので、こちらもやはり美濃の仕事。toeの柏倉隆史はハードコア~ポストロックの文脈では早くからカリスマだったが、木村カエラのバンドへの参加によって、その存在が広く知れ渡ったように、佐藤の存在もまた今後より注目されるだろう。
もちろん、クールでありながら、どこか儚さを感じさせるREISのボーカルもこのバンドの大きな魅力で、先鋭的な音楽性でありながら、ドラマの主題歌やCMソングとして大ヒットしそうなポテンシャルも感じさせるのは、彼女の存在によるところが大きい。「女性ボーカルを軸としたバンド編成で、音楽的にはジャズやR&B、ヒップホップ、ロックなどの折衷」というDADARAYのあり方は、「Hiatus Kaiyote以降のジャパニーズポップス」として、CICADAやTAMTAMなどの注目株と並べることも可能であり、ゲス乙女同様に、確かな時代性を備えていると言えよう。
7月にはインディゴがニューアルバム『Crying End Roll』を発表し、8月からはゲス乙女の全国ツアーがスタートと、夏から活動はさらに加速していく。彼らの存在がこの国の音楽シーンに必要であることを、きっと再認識することになるはずだ。
■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。