Mr.Childrenはなぜ今“普通のロックバンド”を謳歌? 25年のキャリアから考察

「更新」と「期待」の折り合いをどうつけるか

 アーティストとしての活動が長く続けば、その分ファンも年を重ねていく。そうなると、ファンからの「あの頃の曲を聴きたい」「あの頃のようなことをやってほしい」という声はどんどん強まっていく。もちろん、そういったファンを否定できる人は誰もいないはずである。若い頃に聴いた音楽にノスタルジーを感じるのは自然なことであり、それが染みついた音楽はどんな最新モードよりも美しく響くというのもまた事実である。

 この傾向は、特定のアーティストとファンの関係性のみならず、日本の音楽シーン全体に対してもあてはまる話である。日本全体の高齢化が進む中で音楽は必ずしも「ユースカルチャー」ではなくなりつつあるし、テレビの音楽番組で90年代の楽曲が日常的に演奏されているのにもこういった背景が関係していると思われる。また、過去に時代を彩ったヒット曲の魅力が今でも有効に機能するというのはその楽曲の普遍性の証明でもあり、その楽曲の印象がそれを歌っているアーティストのイメージにスライドするというのもある意味では当然の話である。

 とは言え、どれだけキャリアを積んでいても新たな価値観を提示して自らのイメージを刷新したいという気持ちを多くのミュージシャンが持っているはずである。前述したような「自然なこと」「当然の話」に寄りかかって同じことを繰り返すことで効率的に収益を上げられればいい、などと考える人たちはほとんどいないのではないだろうか。

 自分たちのイメージを更新するために新しい作品を出し続ける(もしくは新しい取り組みに挑戦し続ける)ことと、古くから自分たちを支えてきたファンの変わらぬ期待に応えること。長く活動を続けていくと、この両面にどう折り合いをつけていくのかという問題に必ずぶち当たる。そして、2000年代以降、つまりJポップという概念の誕生後しばらく経ってからデビューした面々も10周年、15周年といった節目を迎えるようになった状況を考えると、この問いに直面するアーティストは今後さらに増えていくはずである。

 おそらく、この問いに対する単一の答えはない。ミスチルのように様々な試行錯誤を繰り返すケースもあれば、前回の当連載の記事で触れたように音楽的なスキルをつけながら周囲の評価を覆していく中でポジショニングが変わっていくケースもある。また、スピッツやエレファントカシマシのように時代の流れに大きく左右されることなく淡々と自らの音楽を紡いでいくケースもある。そのミュージシャンのスタンスや目指したいことに応じてとるべき道は変わってくるはずだが、願わくばそれぞれのやり方が若いアーティストやこれから音楽の道を志す人たちにとっての道標になってほしい。「音楽を長く続ける」「その中でマンネリに陥らずにクリエイティブなサイクルを回していく」というイメージを誰しもが共有できるようになってこそ、日本のポップスは文化として定着していくのだと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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