女王蜂は“異端”にして“ポップ”であるーー担当プロデューサー×柴那典が語るデビューから『Q』まで

女王蜂はなぜ“異端”にして“ポップ”なのか?

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「『Q』は、決して到達点ではなくむしろ始まり」(薮下)

薮下:今回の『Q』でも「金星 Feat.DAOKO」ではDAOKOさんをフィーチャリングに招きました。「金星」はすでに一度リリースした曲でもあるので、今回はそれをアルバム用にリコンストラクションしようと。聞くところによると、もともとDAOKOさんも女王蜂が好きで、ライブにも来てくれていたらしく、アヴちゃんもDAOKOさんのライブに行って、そこで打ち上げまで参加し意気投合して、今回のフィーチャリングに至りました。柴さんがTwitterで書いてくれたように、「金星 Feat.DAOKO」にDAOKOさんが参加してくれたことが、これまで女王蜂を知らなかった人にまで伝わるという意味で大きく影響したんじゃないかなと思います。女王蜂のそれまでの先入観を払拭するという意味でも。

柴:女王蜂の初期に持ってた刹那感、カタルシス、破壊みたいなものがどこにもない。ドンキとかでかかってそうな印象でした。

薮下:お洒落なセレクトショップやアートショップではなく、普通にドンキでかかっているみたいな(笑)。キッチュで、だからこそある種フィジカルでポップな作品になったと思います。

柴:キッチュさが引きになりましたよね。女王蜂って孤高であるし、文脈がたくさんあって理解するのにいろんなことを踏まえなきゃいけないんだけどーーもちろん、それはよさでもあるし、一度好きになったらずっと好きでいられるタイプのバンドなんだけどーー、女王蜂について何も知らなくても、「あ、これいいじゃん」ってポチッと買える曲が生まれたというのは、女王蜂にとっても大きい。

薮下:今までの女王蜂って、好きな人はすごい好きだし、知らない人は全く知らないバンドだったと思うんです。でも、今回ある種の軽やかさをまとって大きく拡散したタイミングではあるのかなと思います。

柴:一方で「Q」みたいな曲も入ってますし。

薮下:「Q」はアヴちゃんが本当に大事にしてる曲で、彼女の中の聖域のような不可侵な部分、アイデンティティみたいなものが強く反映してると思います。女王蜂はやっぱりネガがあることでポジがあるみたいなバンドだから、そこがなくなると、存在意義がなくなってしまうように思います。

柴:「Q」はとても強い曲で、「金星」とはまた違ったキャッチ力があるんですよね。あんなパワーを持った曲を聴くと、みんな射抜かれちゃう。「DANCE DANCE DANCE」とか「金星」みたいな曲はアルバムの最初に入っていて、中盤の「失楽園」などもあって、「今回はディスコでキラキラしててキッチュで女王蜂変わったね」って思ってたら、最後の3曲でちゃぶ台返されるみたいな(笑)。特にラストの「雛市」の<汗水垂らして三万円 生唾渇かして三回戦>っていう一節がすごい。内容もさることながら、韻の踏み方、メロディの乗り方、語呂の良さも含めて、詞としての完成度がとても高いと思いました。アヴちゃんがインタビューで「この部分の歌詞は元の形から変えるように言われて戦った」と話していたのを読んだんですが、これはもともとは違った歌詞があったんですか?

薮下:最初は、歌詞がもっとアグレッシブでした。そこで、アヴちゃんと話して少し変えてもらいましたね。もちろん彼女の中で葛藤もあったけど、今回これだけポップなアプローチをしていて、ただその歌詞が原因となって、本来の意味が曲解されてしまったり、届くべき人に届けられないとなると、それはバンドにとって大きなデメリットを受ける可能性もあるので、ちゃんと話してアヴちゃんにも合意してもらいました。結果、当初とは違った意味でより深みのある表現に昇華出来たんじゃないかなと思います。

柴:なるほど。僕はいちリスナーとしては、そういう制約やせめぎ合いの中で発揮される作家性というものは好きなんです。ある種の規制や要請に直面して、自分のやりたいこと、自分の出したい世界観が100%表現できないとなったときに、そこでただ諦めるでも、突っぱねるでもなく、絶妙なラインをついてくるタイプの表現者は、本当の力を持っていると思うので。

薮下:言葉としては直情的であることはもちろん大切だけど、見せすぎない、虚実がわからないぐらいのほうがいい場合もあるんじゃないかなと。アヴちゃんには独特の文学性、ボキャブラリーがあるんですよね。「雛市」もそうですが、歌詞も敢えて古い言葉を自己流で使うし、散文的、現代詩的でもある。音としてもグルーヴのあるサウンドライクな歌詞でもあるんですけど、そう言えば今回アルバム作る時に、最初はヒップホップなアルバムにしよう!みたいな話もあったんですよねー(笑)。

柴:へえ。それは興味深い。

薮下:アヴちゃんと色々話す中で、今って実はそういういわゆるロック・ミュージック然としていないアプローチの方が、寧ろロック的なんじゃないかなーという話になったんですよ。『Q』のジャケットも、僕は撮影には行けなかったけど、アヴちゃんから特殊メイクによるメタモルフォーゼな写真と一緒に「アノーニみたいでしょ?」ってメールが送られてきて、「おー、なるほど。いいじゃん!」と僕も思って。女王蜂も一見異形ではあるけど、そこにいろんなポップネスが混在してると感じていたので。プリンスやデヴィット・ボウイに感銘を受けつつ、夜のクラブ・カルチャーも吸収して、庵野秀明の『エヴァンゲリオン』や『シンゴジラ』、岡崎京子の影響もあって。そういういろんなものが闇鍋状態になってるんですよね。『Q』はそういうメタな情報量も入ったものをカットアップして、全く違う表現としてコラージュしたようなアルバムになった気がします。

柴:確かに。女王蜂が孤高なのは間違いないですけど、ドレスコーズの志磨(遼平)さん、卓球さんなど、孤高であることを尊ぶ仲間たちが周りにいますよね。そういうのが、まだ生まれてない新しい風潮の先駆けである可能性もあると思います。

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薮下:音楽業界は景気が悪いかもしれないけど(笑)、実は面白いバンドはいっぱいいるじゃないですか。D.A.N.とかDYGL、yahyel、PAELLAS、ちゃんみな、KANDYTOWN、ペトロールズみたいなアーティストが、少しずつEXILEとか三代目 J Soul Brothersみたいな音楽が好きな人たちにも届いて行けば、日本の音楽シーンはもっと面白くなっていくんじゃないかなと。今は、例えば三浦大知がKOHHを語る時代だし、w-indsがボーカル・ドロップの手法を取り入れてより深化させたR&Bサウンドを展開したりと僕らが思ってる以上に日本のミュージシャンや、それを取り巻く状況がメジャー、マイナー問わず世界とシンクロし始めた時期だと思うんですよ。

柴:僕も、2017年に入ってからガラッと空気が変わったと感じています。10年代の前半、つまり2011年からの5年間が、たとえば「KAWAII」カルチャーのようないい意味でのガラパゴス的な日本のポップカルチャーが称揚される時代が続いていたとすると、去年くらいからそれとは別の潮流が生まれ始めて、それが今年より強くなっているんじゃないかと。

薮下:そうですね。その中で女王蜂はどれだけまたメタモルフォーゼしていけるのかってことがキーだと思ってるんですよ。やっぱり、今までは「女王蜂ってああいう感じでしょ」という対外的イメージがあったし、敢えてそういう風にリマインドしてる彼女たち自身の振る舞いもあったけど、そこが今大きく変わりつつある。ライブ自体も、スキャンダラスで煽情的なことだけじゃなくても単純にショーとしてこれ以上踊れるライブないだろう、ぐらいの強力なグルーヴもあるので。

柴:アヴちゃんはパフォーマー、コンセプターとして、もともと抜きん出た才能を持っていると思います。なので、今薮下さんがおっしゃった色んな刺激を受けて、今いい種が撒かれているのではないでしょうか。今回の『Q』は、ディスコティックなものとフォークなもののふたつの層のあるアルバムですけど、初期の頃と今この音楽性があれば、これから先何をやっても許されるというか。例えばくるりもそういうバンドで、『さよならストレンジャー』から『THE WORLD IS MINE』にかけて4枚アルバム出したあたりで、次に何が来ても驚かれないバンドになったんですよ。女王蜂も今回のアルバムを経て、好きなことができるチケットを手に入れたんじゃないかなと思う。ハドソン・モホークが作ってるようなエレクトロをやっても映えるし、一方でアヴちゃんはおそらくシャンソンとかもルーツにあるだろうから、そっちで舞台を作っても面白いと思いますし。

薮下:ありがとうございます。昔って、YMOとか戸川純がいきなりお茶の間に出るみたいな瞬間ってあったじゃないですか。『笑っていいとも!』とか『オレたちひょうきん族』に出演して、次の週には小学生がみんなレコード買ってたみたいな(笑)。今の時代だとそれってマツコ・デラックスとかピコ太郎、ブルゾンちえみかもしれないけど、音楽でも異形のもの、アンダーグラウンドなものが、あるポイントを経てポップシーンで顕在化する可能性ってすごいあると思っていて。そういう価値観の大きな転換、パラダイムシフトというのが起こり得る時代だと思うので、女王蜂みたいなバンドがオリコン1位をとったり紅白出たりすることも夢じゃないなと思うし、その可能性を信じてみたい。なので、『Q』は、最高傑作でありながら、決して到達点ではなくむしろ始まりであって、女王蜂にとってこの先の輝かしい未来を見据えたひとつのマイルストーン的な作品になっているんじゃないかと思います。

(取材・文=編集部/撮影=竹内洋平)

■リリース情報
5th Full Album『Q』

初回生産限定盤(CD+DVD)3800円
通常盤(CD)2800円

<CD収録曲>
アウトロダクション
金星 Feat. DAOKO
DANCE DANCE DANCE 
しゅらしゅしゅしゅ
超・スリラ
失楽園
Q
つづら折り
雛市

<初回限定盤DVD収録内容>
全国ツアー「金星から来たヤツら」Final(2016.07.09 Live at Zepp DiverCity)
金星
ヴィーナス
スリラ
折り鶴
告げ口
鬼百合
始発
緊急事態
Music Video
金星
DANCE DANCE DANCE
失楽園
Q
アウトロダクション

■ツアー情報
『女王蜂 全国ワンマンツアー2017「A」』

2017年4月6日(木)兵庫県 神戸VARIT.
2017年4月8日(土)福岡県 DRUM LOGOS
2017年4月14日(金)大阪府 なんばHatch
2017年4月29日(土・祝)広島県 SECOND CRUTCH
2017年4月30日(日)岡山県 IMAGE
2017年5月6日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
2017年5月12日(金)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
2017年5月13日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
2017年5月25日(木)京都府 磔磔
2017年5月27日(土)香川県 DIME
2017年6月2日(金)宮城県 darwin
2017年6月3日(土)岩手県 Club Change WAVE
2017年6月11日(日)石川県 Kanazawa AZ
2017年6月25日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
2017年7月2日(日)東京都 Zepp DiverCity TOKYO

女王蜂オフィシャルサイト

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