Base Ball Bearは“2周目の青春”で新フェーズへ! 『光源』のサウンドと詩世界の変化を読む

ベボベは“2周目の青春”で新たなフェーズへ

 Base Ball Bearが、4月12日に1年5カ月ぶりのニューアルバム『光源』をリリースする。

 昨年3月、結成以来のメンバーであった湯浅将平(Gt)が脱退し、小出祐介(Vo/G)、関根史織(B/Cho)、堀之内大介(Dr/Cho)の3人編成となった彼ら。新作はスリーピースバンドとしての彼らが作り上げた初の作品となる。

 前作アルバム『C2』の全国ツアーを目前に控えたタイミングでの突然のメンバー離脱は、バンドを揺るがすとても大きな出来事だった。が、彼らは歩みを止めることを選ばなかった。3人はフルカワユタカ(ex.DOPING PANDA)をサポートギターに迎えてツアーを敢行し、ファイナルの『日比谷ノンフィクションV~LIVE BY THE C2~』では、フルカワに加え、石毛輝(lovefilm/the telephones) 、田渕ひさ子(toddle/LAMA)、ハヤシ(POLYSICS)を迎えてのステージを実現させる。さらにバンドは11月から3月にかけて弓木英梨乃(KIRINJI)をサポートギターに迎えて全国ツアー『バンドBのすべて 2016-2017』を開催。メンバー脱退からの1年間、まったく活動のペースをゆるめることなく、むしろライブの現場を中心に自分たちが直面した状況をドキュメントとして発信し続けたわけである。

 もちろん、どんなバンドにとっても、脱退、解散、活動休止などのニュースはつきものだ。ただ、新作『光源』を聴いて感じるのは、その経験がソングライターとしての小出祐介に大きな可能性を与えたということ、そしてそれを乗り越えた3人のクリエイティブに“自由”をもたらした、ということ。その理由は何より、結成から15年、彼らが「4人で鳴らすこと」をバンド唯一のルールとして守り続けてきたことにある。

 前にも書いたが、実は彼らのようなバンドは稀だった。同世代の他のバンドが打ち込みのシーケンスを導入したり、ホーン隊やストリングスなど別の楽器をエッセンスとして取り入れてサウンドの幅を広げる一方、彼らはかたくなにギターバンドのフォーマットを守ってきた。その一方で『C2』では明らかにディスコやファンクなどブラック・ミュージックへの接近を意識していた。すなわち目指していく音楽性にとって「4人で鳴らす」というルールが明らかに“制約”として機能しつつ、それがあるからこそ「よくわかんないけど、なんだかすごい」バンドとして進化してきたのが『C2』までのBase Ball Bearだった。

 しかし、湯浅将平の脱退により、その“制約”が突然なくなった。タガが外れたというか、ギター2本とベースとドラムという発想でサウンドを考える必要がなくなった。じゃあ、どうするか? その回答が8通りの形で収められているのが全8曲の『光源』と言える。

 それが最も象徴的にあらわれているのが5曲目の「寛解」。ソウル・ミュージックのエッセンスを吸収し、ローズ・ピアノの音色、アダルトなカッティング・ギターを配したムーディーな一曲だ。ホーン隊を配した3曲目「Low Way」も、ペトロールズ、cero以降のネオ・ソウル的なバンドたちの動きと完璧に共振を果たすナンバー。おそらく小出祐介というソングライターがこのあたりの動きと呂布(KANDYTOWN)や三宅正一(Q2)などを介して同時代的な意識を持っているのは間違いないはずで、「4人で鳴らす」というルール=制約がなくなった後に「バンドでブラック・ミュージックをどう解釈するか」という試みにおいて、Base Ball Bearは新たなフェーズに入ったと言える。

 リード曲「すべては君のせいで」でも、目立つのは小出祐介による単音のギター・カッティング。そこに関根史織のベースラインが絡み、堀之内大介のドラムがスクエアに支える。そこにキラキラとしたシンセの音が配されている。「逆バタフライ・エフェクト」では初期のTRICERATOPSを彷彿とさせるような四つ打ちのビートとオクターブを上下するベースラインが印象に残る。

 一方、7曲目の「リアリティーズ」では、彼らが「short hair」(2011年『深呼吸』収録)や「光蘚」(2014年『二十九歳』収録)や「ホーリーロンリーマウンテン」(2015年『C2』収録)で試みてきたシューゲイザー的なギターサウンドを新たなスタイルで形にしている。ソウルやファンクのようなブラック・ミュージックと、Oasisなど90sUKロックのバンドたちの根本的な違いは、サウンド構築の発想を“点”で捉えるか、“面”で捉えるかにある。“抜く”か“埋める”かと言ってもいい。ドラム、ベースが音圧を高め、ギターのストロークが塗り重ねられ、空間系のエフェクトが広がり、隅々まで埋まったサウンドの中で歌が響く。それが、ロックの一つの王道の美学でもある。「寛解」や「Low Way」は“点”の発想なのだが、メロトロンの音を配したこの曲は、スリーピースバンドとして再出発した彼らが“面”の発想を新たな形で実践していることの結果でもある。

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