白神真志朗が語る、“リアル過ぎるラブソング”への挑戦「描写されない恋愛の瞬間を拾う」

白神真志朗、新たなポップスへの挑戦

「誰かに批判されてもいいからポップスとして多くの人に聴いてもらいたい」

ーーそして今回のミニアルバムを締めくくる「1LDK」は、1曲目「バイバイ」で別れを告げられないと言っていた主人公の女性と、一連のセックスフレンドとの関係との終わりを描いた曲になっています。

白神:作品を作っていく中で、「最後に救いがほしい」「結論がほしい」という話になったからですね。でも、これは別れを描いていると言っても最後まで自分から別れを告げられたわけではなくて、関係が終わってその地を離れていく、という曲。もともと、「ラブソングで冬の曲があればいいね」という話になったときに、ありふれた冬の季語を使わずにその景色を表現しようと思って考えたんです。それで〈春を待たずにこの街を出よう〉というフレーズを使ったら、物語の内容とリンクして「これから暖かくなるかもなぁ」というニュアンスが出た、いい温度感のものに落ち着きました。

ーーこの曲は、取材開始前に本作の影響源として教えていただいていたOWL CITYなどのシンセ・ポップに通じる魅力が感じられます。

白神:最初は後半に向けてワーッと壮大になっていくような展開を考えたんですけど、それだとありきたりなものになってしまうと思って、サビで一度落としてアレンジで盛り上げていくようなものにしました。海外の音楽は、Aメロ/Bメロ/サビというきっちりとした役割を持たない曲が多いですよね。でも、それを洋楽だとみんなありがたがって聴くのに、「日本の音楽でそれをやると聴かれないことが多いのは何故なんだろう?」と思うことがあって。もちろん、日本にもインディ・シーンにはそういう構成を持った素晴らしい曲が沢山ありますけど、ポップ・シーンでやろうとすると一気にハードルが上がってしまう。だから、意図的にそういう要素を入れてみたいなと思いました。今回僕はポップス・マシーンに徹しようと思っていたのに、そうやってところどころ踏み外してしまう瞬間がありましたね。

白神真志朗 『1LDK』

ーーお話を聞いていて思ったんですが、今回の白神さんは自分が持っているアンダーグラウンドなものも含めた様々な要素を、「ポップスという枠にどれだけ詰め込んで成立させるか」ということを考えていたのかもしれませんね。

白神:ああ、それはそうかもしれないです。僕はもともと(アカデミックなエレクトロニカ・アーティストの)KASHIWA Daisukeもすごく好きで、カットアップを無意識にやってしまうような人間なんです。それにヨハン・ヨハンソンやマックス・リヒターも好きで、ああいうパッド感やストリングス感もつい入れたくなってしまう。だから、「メロディがポップならそういう要素も入れられるだろう」ということはよく考えていました。

ーー今回の作品は歌詞の面ではラブソングに焦点を当てた作品で、同時にサウンドとしてはポップに振り切れたものにもなっていて、全編を通して新たな挑戦が沢山詰まっています。白神さんのポップ観に、新たな要素が加わった部分もあったんじゃないですか?

白神:実は、今回は歌詞の面で振り切っていたから、「これは友達が減ってもやむなしだな」と思っていたんです。ところが周りの人たちには逆に「かっこいい」「オシャレ」と言われるようになった。僕としては、「いやいや、オシャレじゃないでしょ!」と思ったんですけど、実際そう言われることがすごく増えました。結果、思ったより友達が減らなかった。

ーー(笑)。ポップスは本当に不思議な音楽ですね。誰かのものすごくパーソナルでむき出しの感情が宿ったものが、何故か多くの人々に受け入れられる瞬間があるという。

白神:それに近いものを経験したのかもしれないですね。そもそも、僕はニッチな音楽も好きですけど、ポップスもずっと好きだったんです。平井堅も宇多田ヒカルも好きだし。

ーーでは、白神さんにとってポップ・ミュージックとはどんな魅力があるものだと?

白神:まずは単純に「沢山の人に聴いてもらえる音楽」ということだと思います。僕の音楽がそうなるかは分からないけど、少なくとも僕自身は、身内だけに絶賛されて鳴かず飛ばずで一生を終えるよりは、誰かに批判されてもいいからポップスとして多くの人に聴いてもらいたい。ただ、世にポップスと呼ばれている音楽の中には、僕にとっては虫唾が走るような音楽も沢山ある。「ただポップスであるというだけで尊い」わけではないということですね。だからこそ、僕がポップスをやるときには、自分の中にある色んな要素を入れていきたい。その上で、多くの人に聴いてもらいたい。僕が言うのもおこがましい話ですけど、そういう人間が増えることで、ポップ・ミュージックがより面白いものを受け入れるようになっていくとしたら、それって最高なことだと思います。

白神真志朗 アルバムクロスフェード

(取材・文=杉山仁)

■リリース情報
『東京におけるセックスフレンドや恋人のなにがし (またはそれに似た情事)について聞いて書いた。』
発売:2017年2月22日
価格:¥1,600(税抜)
〈収録曲〉
01 : バイバイ
02 : 共犯者
03 : 擦れ違い
04 : スガタミ
05 : 1LDK

オフィシャルサイト

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