村尾泰郎の新譜キュレーション 第10回
ラムチョップが4年ぶり新作で切り開いた新境地 USインディー・シーン注目の5枚
兄弟バンドといえば、個人的に大好きだったのがディーン・ウィーンとジーン・ウィーンの兄弟バンドとして90年代を中心に活躍したウィーン。しかし、本当は2人は赤の他人で、ウィーンは2012年にいったん解散したものの2016年に再結成を果たした。そんななか、ディーンが新たに結成したのがディーン・ウィーン・グループだ。ディーンはウィーンと並行してモイスト・ボーイズというハードコア・パンク・バンドをやっていたが、ディーン・ウィーン・グループのファースト・アルバム『The Deaner Album』もディーンのハードコア魂が燃え上がるヘヴィなサウンドで、ディーンは熱くねっとりとギターを弾きシャウトする。ウィーン的ともいえるシニカルなポップ・センスも見え隠れしていて、ヴォーカルにエフェクトをかけたファンキーなナンバー「Mercedes Benz」は、ウィーンの新作の布石かも、と密かに期待。
2013年に再始動した西海岸のバンド、マジー・スター。そのボーカルのホープ・サンドヴァルが、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのドラマー、コルム・オコーサクと結成したユニット、ホープ・サンドヴァル&ザ・ウォーム・インヴェンションズが、約7年ぶりの新作『アンティル・ザ・ハンター』を発表した。繊細に音を重ねてトロトロと煮込んだような音響は、シューゲイザー的な浮遊感を漂わせていて、余白を効果的に使った音作りも見事。サンドヴァルの歌声は甘く、気怠く、耳元に囁きかけてきて、サウンドに溶け込みながら妖しく艶やかな香気を放つ。そんななか、「Let Me Get There」では、シンガー・ソングライターのカート・ヴァイルとデュエットを披露。サンドヴァルの歌声にじわじわと引き込まれていいくうちに、師走の忙しさを忘れる鎮静剤のようなアルバムだ。
■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。