『いきものがたり』出版記念インタビュー
いきものがかり水野良樹が、J-POPに挑み続ける理由「今はない“みんなで聴くもの”を目指してきた」
「『ぼくらのゆめ』は10周年だから許される曲」
――ベストアルバム『いきものばかり』のリリースに際して、スタッフとの面談中に「君たちは将来、どれくらい売れたいんだ?」と聞かれて、「ミリオンです」と即答したというエピソードも痛快でした。その意図するところは本を読んでいただくとして、水野さんは一般にCDセールスからライブを柱に、といわれる音楽業界の変化をどう捉えていますか。
水野:僕らは旧来のCDというものを中心に考える音楽業界における、最後の世代の人間だと思います。ディレクターがいて、大きなスタジオで音源を録って、何か特典をつけたり、歌っている人間のタレント性にあまり寄るのではなく――もちろんそれをまったく否定するわけではありませんが、あくまで音源を中心にセールスを行う。いま僕が思うのは、そういう昔のスタイルを知ることができる立場にいられたのは大きいかなと。少人数でミニマムに制作する素晴らしさもあると思いますが、そうでない制作の素晴らしさも知っていることが、音楽業界が新たなスタイルに変化していくときに、強みになるんじゃないかと。
また、ライブが中心になるということで、その場で共有するというのはお金を出すにふさわしい、素晴らしいことだとは思いますが、一方で、空間や時間に縛られず、何十年前の楽曲もそのまま聴けるという音源の魅力も大きいものなので、音楽という文化にとっては、そこは維持したほうがいいんだろうなと思います。それを皆がちゃんとやるためにはお金が動くシステムが必要ですし、どちらがいいという話は僕が言えることではないのですが、そういうチャンスは残ってほしいなと。
――ライブという横軸での共有だけでなく、時間も空間も超えた縦軸での共有も、音楽にとっては重要だということですね。さて、今回の本はあくまで水野さんにとっての『いきものがたり』であって、吉岡さんと山下さんには、それぞれ別の物語があるだろう、と書かれていますが、お二人から何か感想はありましたか。
水野:細かい事実確認はしましたけど、あんまり深い感想は聞いていないですね。同じ出来事を経験していても、二人は違うことを考えているはずですし、僕の体験に対して、あえて言わないようにしているのかもしれません。でも、それがグループだなとも思っているんですよね。バラバラの思いを抱えながら、3人でうまくつなぎあいながらやっているのが、いきものがかりなんです。これまで解散を考えてもいい機会はいくらでもあったと思うけれど、僕らは結局それを選ばずに、一緒に作るということを選んできたし、これからも選んでいくと思うので、バラバラのままでいいのかなと。
――3冊の『いきものがたり』を並べて読んでみたい、と思いました。
水野:僕も読んでみたいです(笑)。ただ本という形でなくても、ふたりともいろんなところで語り、表現していくと思います。
――本の最後には、最新曲「ぼくらのゆめ」の歌詞があります。映画『四月は君の嘘』の主題歌「ラストシーン」との両A面シングルですが、路上時代の写真を使ったジャケットも印象的で、いきものがかりの新たなスタート、という印象を強く持ちました。特に「ぼくらのゆめ」は、歌詞の内容もこれまでになかった、チャレンジングな楽曲ですね。
水野:そうですね。これまでいきものがかりは、聴く人にとってつかみやすい楽曲になるように、自分たちのことをなるべく歌わないようにしてきたんです。そのなかで「ぼくらのゆめ」は、まさに自分たちのことを歌っていて。この本を出したこともそうですが、自分たちのことをあえてさらけ出して商品にする、という、これまでとは正反対のことをやっているんですよね。
それが正しいことかどうかはいまは分かりませんが、いずれにしても「ぼくらのゆめ」はすごく踏み込んだ曲です。一方で、「ラストシーン」は自分たちから離れて、別れを経験し、その先を生きなければいけない方に寄り添えればいいな、という楽曲で。これまでのいきものがかりらしい楽曲と、少し踏み込んだ曲が両方並んでいるというのが、僕らの今を象徴していると思います。
――本を読んでから聴くと、初代マネージャーさんの「恩返しは十分だから、これからは自分たちの好きなようにやりなよ」という言葉が思い起こされたり、いろいろな想像がめぐって胸に迫るものがありました。最後に、『いきものがたり』と最新シングルを、どんなふうに楽しんでもらいたいですか。
水野:「ぼくらのゆめ」は10周年だから許される曲ということもありますし、吉岡も迷いのなかで歌っているだろうと思います。もちろん、曲だけ聴いて楽しめるようにちゃんと作っているのですが、一方で、おっしゃるように本を読んでもらってから聴くと、またいろんな捉え方ができると思うので、ぜひ一緒に楽しんでいただきたいですね。これまで僕らは、自分たちのことはなるべく話さないでやってきたので、本の中には意外な発見もあると思います。それを振り返った上で昔のベストアルバムを聴くと、“このときはこんなことを考えていたんだな”と、また別の聴き方ができるかもしれませんし、この本とシングルで新しい楽しみ方をしていただけたらうれしいですね。
(取材・文=橋川良寛/撮影=竹内洋平)
■リリース情報
『いきものがたり』
発売中
価格:本体1,574円+税
『ラストシーン/ぼくらのゆめ』
発売中
価格:¥1,111+税
初回仕様限定盤特典:いきものカード049封入
※初回仕様限定盤が無くなり次第、通常盤を出荷
<収録内容>
1.「ラストシーン」
作詞/作曲:水野良樹 編曲:島田昌典
※映画「四月は君の嘘」主題歌
2.「ぼくらのゆめ」
作詞/作曲:水野良樹 編曲:亀田誠治
※「爽健美茶」2016年キャンペーンソング
3「ラストシーン -instrumental-」
作詞/作曲:水野良樹 編曲:島田昌典
4「ぼくらのゆめ -instrumental-」
作詞/作曲:水野良樹 編曲:亀田誠治