Buono!が武道館公演で見せた、“不敵のアイドルグループ”の強さ
Buono!の本気を見た
PINK CRES.に続いて、カントリー・ガールズ、℃-uteがライブを繰り広げた後、無数の火柱とともに再びBuono!のステージが始まる。「Independent Girl~独立女子であるために 」「雑草のうた」「JUICY HE@RT 」とロックナンバーを畳み掛けていく。むしろ、ここからがBuono!の本気だった。正直、オープニングからの最初のセクションは、音響が万全とは言えないところもあり、どことなく歌いづらさを感じさせる場面もあった。しかし、そんなことを忘れてしまうくらい、Buono!もDolceも守備範囲の広いドライビング・エッセンスで攻め立てる。
カントリー・ガールズではプレイング・マネージャーとして、1歩下がったところから後輩たちを見守り、グループをプロダクトコントロールしている嗣永桃子。しかし、Buono!ではそんな必要はない。太く響き渡る歌声と細やかな表現力を魅せる堂々たる勇姿は、“ももち”ではない、アーティスト・嗣永桃子の姿である。そして、嗣永と夏焼という気の知れた同期であり、頼れる姉でもある2人を隣に、自然と最年少の妹気質が出る鈴木愛理。表情に気を使わないくしゃくしゃの笑顔とは裏腹に、ドスを効かせた低音から突き抜けるハイトーンまで、さらに音域の広がった伸びやかな声を確かな歌唱力で流麗に響かせていく。4年間の個々の活動でさらにスキルアップした3人の底知れぬ力量にただただ驚愕するばかりだ。
純白のドレス衣装にチェンジし、雨宮麻未子のバイオリンを迎え、先ほどまでとは打って変わったアコースティックコーナーでは、グッと大人になった姿と天鵞絨のごとき艶めかしい歌声で魅了していく。そして、「泣き虫少年」から本編最後の「恋愛♥ライダー」に至るまでの怒涛のラストスパートはまさにBuono!の真骨頂であり圧巻のステージだった。
アイドルは音楽、歌のみならず、ビジュアル、ダンスといった見せ方を含めた総合芸術でもある。Buono!はそこにロックテイストを用いた。生バンドの醍醐味を活かしたライブ展開は、アイドルの常套手段とは別のベクトルに向かせたと言っても良いだろう。Berryz工房や℃-uteでは決して見ることのできない3人の姿がそこにあるのだ。会場の熱気と気持ちの高揚を赴くままメロディに乗せ、滑らかな歌声からエッジを効かせた鋭い歌声まで自在に操る。定型のダンスパフォーマンスよりも、場の雰囲気を司るステージング。広いステージを縦横無尽に駆け巡りながら、オーディエンスを煽動していく姿に14年駆け抜けてきたトップアイドルとしての貫禄と生き様が自然と滲み出る。
捲き起こる“Buono!”コールに迎えられたアンコール1曲目は「ロックの神様」。言わずもがなBuono!にとって武道館が特別な場所になった歌だ。夏焼が明らかに感情を抑えながら<小さなステージでも あたしたちにはブドーカン>とクールに歌い上げると、待ってました! と言わんばかりの歓声が沸きあがる。過去には「もし武道館ライブが実現したら、この部分の歌詞を誰が歌うか?」とライブMCで話していたことがあった。2012年の『ゆび祭り〜アイドル臨時総会〜』でBuono!がはじめて武道館のステージに立ったときには「この曲を歌うのは、自分たちの力で武道館に立ったとき」と歌うことを拒んだ。だが、2014年9月11日『Berryz工房デビュー10周年記念スッペシャルコンサート2014 Thank you ベリキュー! in 日本武道館』で「ロックの神様」は歌われた。いや、「歌ってしまった……」というのがファンの正直な心境だった。Berryz工房の活動停止発表直後のことでもあり、Buono!の今後の活動も未定だった中で「ここで歌っておかないと、次はないかもしれないーー」そんな3人の心中を表しているかのようでもあった。しかし、今回は違う。アンサーソング「ロックの聖地」で高らかに歌っていたように「始まりから9年」の3人の夢が今、ここに実現したのである。
「いつかまたやろうぜ! この3人で!!」
最後の最後に贈られたのは12人編成の弦楽器隊を交えた「タビダチの歌」。1年半前、『Berryz工房祭り』のときは有明コロシアム全体が涙した歌だった。<旅立つ2人(嗣永・夏焼)へ>と口にした鈴木愛理が途中で歌えなくなるほど泣き崩れてしまった。しかし、今は満面の笑みで希望に満ち溢れた3人の力強い歌声が武道館に響く。Berryz工房は活動を停止し、℃-uteも来年6月を以て解散する。それはアイドルシーンにおけるひとつの時代の終焉を感じずにはいられない出来事である。だが、Buono!はこの先もシーンに存在しつづける、そんな宣言にも思えた。今後の活動について言及することはなかったが、いつかまた3人がこうしてステージに立つ日が来ることは誰の目にも明らかだった。
一般的に女性アイドルグループは瞬く流星の輝きのごとく、活動のサイクルが早い。売上や動員、はたまた卒業・加入といった話題の多いアイドルシーンの中で、そこに捉われずにライブで魅了していく。普段は別々の道を歩むメンバーが、年に1度、たとえ数年に1度でも集まってライブをする。そんな不敵のアイドルグループがいたっていい。それが出来るのは、サイドプロジェクトからはじまったグループながらも圧倒的な存在感を放ち続けてきた奇跡のグループ・Buono!の他にいないのだ。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/twitter