クリープハイプは最新作で衝動を取り戻したーー9月7日発売の注目新譜5選

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。9月7日リリースからは、HKT48、SHISHAMO、クリープハイプ、奥田民生、TK from 凛として時雨をピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)

HKT48『最高かよ』(SG)

 「さまぁ〜ず三村マサカズへのリスペクトソングか?」と注目されたり、作曲家・成瀬英樹氏(AKB48「BINGO!」など)が「HKTの新曲が素晴らしいな。誰かな、作曲」とツイートしたりとリリース前から各方面で話題を集めているHKT48の新曲は、BPM170超の軽快なリズムとともに驚くほど口ずさみやすい穏やかなメロディが広がるポップチューン。歌詞のなかでは<君と出会って すべて 変わった>と恋愛の本質をさりげなく織り込みつつ、聴き終わった後には<恋って!恋って!最高かよ!>という超キャッチーなフレーズが頭のなかでループしてしまう。さらに「タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!」といった掛け声もしっかり挟まっていて、ファン対策・ライブ対策も完璧。作曲者は中森明菜の「LIAR」(1989年)からAKB48「ひと夏の反抗期」(2014年)まで長きに渡って日本のポップス界で活躍する和泉一弥氏。聴き手と時代に寄り添い、楽しませる、大衆音楽のセオリーが貫かれた佳曲だ。

HKT48「最高かよ」(Short ver.)

SHISHAMO『夏の恋人』(SG)

 夏フェスの新たなアンセムとなったアッパーチューン「君と夏フェス」(2014年)、ソウルミュージックのテイストを反映させたアレンジと夏の夜のけだるさを映し出した歌詞によって豊かな音楽性を証明した「熱帯夜」(2015年)に続く2016年のSHISHAMOの夏ソング「夏の恋人」は、洗練されたコード進行と美しくも切ないボーカルが印象的なバラードナンバー。<いつまでも子供でいたいけど/ねぇ、だめなんでしょう?>という歌詞にあるように、この曲で宮崎朝子(V&G)は子供から大人に向かう時期の揺れる心情を見事に描いている。初のバラードシングル、初めてのストリングス導入といった新たなトライも、“いつまでも同じところにはいられない。どうしても先に進まないといけない”という彼女たちのリアルな感情と重なっているのだろう。シーンやユーザーを意識するあまり均一化しがちな現在のロックバンド勢のなかで、自らの年齢、経験、志向の変化とともに音楽性を広げているSHISHAMOのスタンスはきわめて稀。女の子はやっぱり強い。

SHISHAMO「夏の恋人」

クリープハイプ『世界観』(AL)

 武道館2daysライブを成功させても、小説家として評価を得ても、おそらく尾崎世界観はまったく充足感を覚えていないだろう。それはバンドマンとしての健康的な上昇志向などではなく、おそらくは自意識、自己嫌悪、嫉妬といった感情に苛まれた状態がまったく解消されないからだ。メジャーデビュー以降はエンターテインメントして成立させることに重点を置いていた印象もあった、シングル曲「破花」「鬼」を含む通算4作目のオリジナルアルバムとなる本作で尾崎は、自己のなかで渦巻く葛藤や焦りをそのままぶつけるような衝動を完全に取り戻した。ブラックミュージック、シティポップ的なアプローチを施した楽曲もあるが、アルバムを聴き終えた後に残るのは、尾崎自身の生々しい感情。しかも彼のー流のストーリーテリング的な手法によって、いつの間にか聴き手のなかに「これって自分のことかもしれないな」という印象を植え付けてしまうのだから、タチが悪いほどに素晴らしい。バンドに対する愛憎をストレートに描き出した14曲目の「バンド」はクリープハイプにしか体現できない名曲。

クリープハイプ「鬼」

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