レジーのJ-POP鳥瞰図 第13回

音楽フェスの未来はどこに向かう? 今年のRIJFとTIFからレジーが考察

「アイドルフェス」が歩んでいく道

 「ROCK IN JAPAN は毎年活気に満ちている。しかし必ずしもロックファンが集っているわけではないと思う。逆に言うと、そこに可能性があるのではないだろうか?アイドルを観に来た人達、ポップバンドを観に来た人達にロックがアピールできる場なのだ。「小さくなってきたロックを広める場」なのだ。」

 前述のコラムにおいてKen YokoyamaはRIJFについての認識をこう語っているが、実際のところこのフェスにおいてアイドルというものの占める割合は実はあまり大きくない。4日間のうち、ここで触れられているようなアイドルとカウントできそうなグループはBABYMETAL、チームしゃちほこ、でんぱ組.inc、℃-uteの4組。2013年、2014年に積極的にアイドルを登用したことで「RIJFにはアイドルも出る」というイメージが一部に流布されている感じがあるが、「アイドルを見たい人」がこのフェスにわざわざ足を運ぶメリットは現状ではあまりない。

 数年前に「アイドル」と「ロックフェス」がいかに交わるかというテーマが話題になったこともあったが、2016年時点で「アイドル」は「ロックフェス」とは異なるフェスの場を作り上げている。今年で7回目を迎えるTOKYO IDOL FESTIVAL(以下TIF)は75000人を超える動員数を記録。実施日数は異なるものの、「4大フェス」と言われる日本の大型フェスのうちの1つであるRISING SUN ROCK FESTIVALと同等の規模にまで成長した。

 今年のTIFについては「沸くための装置となった」というような参加者の実感が各所で語られ、最終日の夜のSMILE GARDENにおいてオーディエンスがサイリウムを投げまくる映像も話題となった。このあたりの話についてはTIFにも参加していたアイドル現場に詳しいガリバー氏が「1日200ステージ以上進行しているステージの中で、沸ける事が重要視され・荒れるステージなんて1割も無いのに、まるでそれが象徴のように語られるのは無理がありすぎる」と指摘しており(ガリバーTwitter2016年8月15日投稿)、針小棒大に取り扱われている部分もあるかもしれない。ただ、「みんなで乗れる・盛り上がれることが大事」といった価値観が一気に浸透していったロックフェスのあり方を補助線として引くと、アイドルフェスが「とにかく沸くことが大事」という方向性に今後さらに振れていくというのは決して荒唐無稽な話ではない。

 日本のロックフェスの歴史は1997年に開催された初回のFUJI ROCK FESTIVAL(以下フジロック)から数えて約20年だが、アイドルフェスの歴史は長く見積もってもその半分にも満たない。「アイドル戦国時代」を経て世間に定着しつつある状況で考えると、せいぜいまだ2、3年。これから歴史が作られていくタイミングである。ロックフェスの歴史を振り返ると、97年のフジロック、2000年のRIJFと早々に「途中中止」という試練があり、そこで芽生えた参加者の意識の高さ(服装はしっかり準備する、地域の人に迷惑をかけない、フェスは自分たちが作るもの、など)が共有されたコンテクストとして存在している。アイドルフェスという文化において現段階ではそういった「行動規範として語り継ぐべき共通体験」というようなものはおそらくまだないし、大きく取り沙汰されてしまうような逸脱した「沸き方」がTIFの一部ステージで見受けられるのにもそういった背景があるのかもしれない。

 今年のTIFでは一部のアクトのために早朝から整理券が配布されたりSMILE GARDEN周辺に目隠し用の幕が設置されたりと、「自由と信用」を核にした運営(それはもしかしたら「ずぼらさ」の裏返しだったのかもしれないが)が終わろうとしている兆しがいくつか見られた。この先のTIFが「快適さを維持するためのルール作り」が前面に押し出されたものになっていくのか、それともこれまでの牧歌的なムードを残していこうとするのか。今後もTIFがショーケースの場として魅力的であり続けられるかどうかは、アイドル文化の未来においてとても重要である。「アイドルフェス」が「ロックフェス」と同じような歴史を積み重ねていくのか、それとも独自の道を歩むのか、参加者として楽しみながら今後の動向を注視していきたい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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