音楽評論家、なぜこのタイミングでレーベル設立? 岡村詩野に訊いてみた

 ほかにも、先日ライターの南波一海氏がタワーレコード内にレーベル<PENGUIN DISC>を設立するなど、音楽にまつわる書き手がレーベルを立ち上げるという流れが続いている。そもそも、こうした動きは佐々木敦氏が立ち上げた<HEADZ>を筆頭に、80年代から90年代にかけてよく見られた。2016年のこのタイミングになって、再度似たような現象が起こっていることについて岡村氏に聞いたところ、「100人いれば100通りの音楽の聴き方があるべきで、そのための様々な選択肢の一つとしてレーベルがあり、音楽ライターの仕事もそのためのガイドの一つです」と、あくまで自身が文章やラジオなどで伝えている内容と同じベクトル上に、今回のレーベル設立があることを示唆した。

 また、同氏は現在の音楽シーンについて「机上のモットーや哲学ではなく、結局はある種エゴイスティックなまでに強い意志をもって伝えられる現場が求められているような気がする」と語り、「面白い、魅力的だと思えるものは、それが音楽でなくても、作り手、送り手のそんなエゴが何らかの形で表出されていることが多い」と持論を展開。SNSの普及や個人ベースのブログメディアが乱立していることなどを踏まえ「伝える側ももっと我が儘になっていいんじゃないか。結果、そうした行動がリスナーにより多くの選択肢を与えることになるのではないでしょうか」と、“船頭”となる人間の必要性を述べた。

 時代に合わせて音楽の届け方も変化しているが、そのなかでもユニークな動きのひとつといえる「音楽評論家によるレーベル設立」。これらがシーン全体にどのような作用を生み、活性化を図ることができるのか。引き続きその動向を追いたい。
 
(文=中村拓海)

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