aikoの楽曲はなぜミュージシャンを虜にするのか 楽曲の“仕掛け”を分析

 2003年にリリースされた「えりあし」は、通算14枚目のシングル。NHK紅白歌合戦への、二度目の登場を果たした際に歌った曲である。ピアノを基調としたミドルバラードで、サビでのストリングスの絡みが感動的。Bメロのコード進行は、<E/BonD#- C#m7/B – E/BonD#- C#m7/C#m7onF#・F#>。分数コードを挟みながらベースが下降していくいわゆる「クリシェ」と言われる技法だ。「これぞaiko節!」と思うのは、「あなたの背中が 遠ざかり」と歌う「が」の音が、コードBonD#対してド#、つまり2度のテンションノートになっているところ。ここ、実際に歌ってみるとわかるが非常に歌いづらい。ついつい3度のレに行きたくなる。が、あえて踏みとどまってこその「aiko節」なのである。ところで、この曲の“いなたい”感じ、サビのドミナントマイナーの部分「あたしの旅」と歌うメロディは、星野源の「フィルム」で、「胸が裂けるほど苦しい」と歌うメロディに非常によく似ている。二人のソングライティングは、かなり共通する部分があるので、いつか検証してみたい。

 さて、最新アルバム『May Dream』からも1曲。aikoはいつも、アルバムの冒頭にキラーチューンを持ってくるが、今回の「何時何分」もキレッキレの名曲。言葉を詰め込む最近の彼女のスタイルを踏襲した曲調だが、メロディの起伏が激しいので単調にならないところが、さすがaikoだ。キーはDで、Aメロは<Gmaj7 – A – Bm – Bm>の繰り返しという、いたってシンプルなパターンだが、「偶然見つけたあの指輪」や「あぁ こんなとこにあったのか」、「一緒にいなくなったんだと」の部分でのブルージーな節回しがアクセントになっている。サビのコード進行は、前半が<G – A – F#m/B♭dim – Bm/BonA - Em – A – F#m/F – Em/A>。「また今度」と歌うメロが、Aのキーの上でラ・ソ#・ソ・ファ・ファと半音ずつ下降する。このモゾモゾした感じ、この曲のもっとも中毒性の高い部分だ。直後のB♭dimや、「少し涙が 落ち着くから」の部分のF#m/Fという半音進行も、ヒネリの効いた「aiko節」だが、「また今度」のインパクトにはかなわない。

 女の子らしい歌詞と、親しみやすくキュートな歌声。それとは裏腹の、ブルージーな節回しやテンションノートを楽曲の中にするりと忍ばせ、百戦錬磨のミュージシャンたちをも虜にしてきたaiko。最新作『May Dream』の楽曲たちにも、その中毒性の高い「仕掛け」はふんだんに盛り込まれているのだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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