フラワーカンパニーズ、初の武道館ワンマンが成功した理由ーー兵庫慎司が舞台裏含めて描く

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photo by HayachiN

 そうした意味合いでの日本武道館ワンマンを最初に成功させ、そのバトンをフラカンに渡したのは怒髪天だが、フラカンの場合、バンドの持っているライフストーリーや状況などに、怒髪天以上に周囲の力が結集しやすい、言い換えれば思い入れを持たれやすい条件が揃っていたのだとも思う。少なくとも怒髪天の武道館が発表になった時は、もちろん驚きはあったが、フラカンほど「大丈夫か!?」と心配されてはいなかったと思う。怒髪天、SHIBUYA-AXもZepp Tokyoも普通に売り切るバンドだったし、武道館前の時点で。

 で、フラカンがそこまで読んだ上で日本武道館を決めたのかというと、もちろんそんなことはない。よくも悪くもそこまで計算高いバンドではない。というか僕もそうで、数年前にこの武道館の話が持ち上がった時、「ダメだよそれ、やめようよ。こんだけ長いことやってきて日比谷野音も渋公も埋まらないバンドが武道館でワンマン切るっておかしいでしょ」などと猛反対した上に、前述の単行本「消えぞこない」の序文で、なぜ自分が反対したかについて箇条書きで言及までしている。その上、同書のメンバー全員インタビューも個別インタビューも、「武道館が埋まらなくてもこのバンドがマヌケに見えないようにする」ということに留意しながらおこなったもんで、ソールドアウトして終わった今読み返すと、メンバーが弱気かつ自虐的に見える、という逆の結果になってしまっている。

 「武道館やるって言ったら、『やめたほうがいい』って反対する人も多かったけど、ほんと、やってよかったです!」

 日本武道館の終演後、関係者がすさまじく多くて控室であいさつを行うのが不可能なため、1Fスタンド客席にそのまま残ってもらったみなさんに向けてアリーナからトラメガで叫ぶ、という形であいさつしたグレートマエカワの言葉である。「はい、俺です……すみません、ほんとに」と、頭を垂れるしかありませんでした。

 ただ、ステージでメンバー4人とも泣かなかったのも、いつもライブハウスでやっているどおりのライブができたのも、このソールドアウトという予想外の出来事のおかげではないか、という気もする。

 というか、これも、僕がそうだったのでした。本番1週間くらい前まで、「俺、間違いなく泣くだろうなあ」と思っていた。で、「かなり無理矢理なトライアルだったけど、なんとかこの日を無事迎えられました、もちろん満員とはいかなかったけど、一応成功と言える形にできました」くらいだったら泣いたと思うが、ライブ5日前の時点で事態が予想を大きく超えてしまったため、「嘘?」「マジ?」「どうしよう?」みたいに脳の処理能力がおっつかなくなり、頭の中の「泣く」「興奮する」「感情的になる」みたいなスイッチが麻痺して、当日の会場入り→リハ→本番までの時間を、虚心に、普通にすごすしかなかった、みたいな状態だったのだ。

 それはおまえの話だろ、おまえメンバーじゃないだろ、と言われればそのとおりだが、リハ前もリハ後も楽屋やバックステージをウロウロしながらひとりでずーっとギターの練習をしていた(つまりテンパっていた)竹安以外の3人は、本番までの時間、気味が悪いくらい普段どおりだった。ステージに出てきた時の姿を見ても、そう感じた。やはり僕のように、虚心にやるしかない気持ちになっていたのではないか、と思う。ただ、たとえば怒髪天の武道館は、頭から最後まで涙、涙だったのが最高だったわけだが、フラカンの場合、「客席には泣いている人があちこちにいるが4人はいつもどおり」くらいの、あのバランスでよかった気がする。じゃなかったら、あんなにいいライブにはならなかったのではないか。

 この武道館のアンコールで、フラカンは2016年2月から12月までかけて全国47都道府県をワンマンで回るツアーを行うことを発表した。日本全国から来てくれたんだから、今度はこっちから日本全国に行く、という趣旨なのだろう。怒髪天も武道館のあとに全都道府県ツアーをやったので、それに倣ったのかもしれない。が、東京のスケジュールを見て笑ってしまった。それまで東京で最大2500人くらいしか集められなかったバンドが9000人を集めたあとのツアーなのに、リキッドルーム2デイズ。武道館前と規模がまったく変わっていない。地に足が着いている。着きすぎている、と言っていいくらいに。

 もうひとつ蛇足。武道館当日、15時に若干枚数の当日券が発売されたが直後に売り切れ、スタッフからその報告が入った時、楽屋はたまたまグレートと僕のふたりだったのだが、「マジで? やった!」「すごいじゃん!」みたいな感じにはならなかった。
僕「おー、すごい」
グレート「ねえ。よかった」
僕「……」
グレート「……」
僕「……明日から、どうしよう?」
グレート「……ねえ?」
という感じだった。「ほんとに超満員だねえ。東京で普段、この1/3……いや、1/4でも来てくれれば、Zeppでワンマン切れるのにねえ」と思わず口にしてしまい、「いや、今日は特別だから! 武道館だからみんな来てくれたんだから!」とたしなめられました。

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(文=兵庫慎司)

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