武藤彩未を「忘れない」ーー宗像明将が活動休止前ライブを渾身レポート

武藤彩未活動休止前ライブレポ

 本編が終わると、これまで聞いた中でもっとも熱狂的な「彩未」コールが起きた。白いドレスに衣替えてアンコールに応えて歌われたのは、まず「明日の風」。そして、私が最高傑作だと考える「彩りの夏」には、武藤彩未の目指すアイドル像が凝縮されているようにも感じられた。サプライズで一斉に輝いたサイリウムを見て、武藤彩未が歌えなくなると、代わりにファンが大合唱。「聞いてないしー! 泣かないでここまで来れたと思ったのに!」というのも武藤彩未らしい発言だった。

 アンコールが終わり、「彩りの夏」が会場に流れて退場がうながされても、ファンが大合唱しながらクラップを続け、無人のステージにケチャまでしていた。

 ステージに武藤彩未とバンドメンバーが再登場し、「今の私にぴったりなこの曲で笑顔で終わりたいと思います」と歌ったのは「OWARI WA HAJIMARI」だった。できすぎである。それでも終わらない「彩未」コールに、「皆さんが私を忘れない限りは戻ってきたいと思っています、待っててください」と語り、武藤彩未はステージを去っていった。

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 この日のライブは、非常に複雑な余韻を私に残した。彼女のヴォーカルを聴いていれば、アイドルの枠を出ても「うまい」と言える技術がすでにあり、充分にアーティストとしても通用すると思えたからだ。そして、「うまい」とは思えても歌が心に響かないヴォーカリストもいる。「うまい」ことが、歌手にとっての絶対的な価値基準だとは言い難い側面もあるのだ。

 そして「本物」とは何だろうか。それは結局のところ、本人が確信が持って提示できる内実と、技巧との掛け算の末に生まれる自信なのではないだろうか。そんなことも帰路で漠然と考えた。そして、抽象的な言葉を語っていた武藤彩未もまた、言語化しにくい曖昧な問いを自分自身に抱えて活動休止を選んだのかもしれない。

 『武藤彩未X'mas Special LIVE「A.Y.M.X.」』での彼女は、「芸能活動」ではなく「音楽活動」についてのみ語っていた。それなのに芸能活動自体を休止し、オフィシャルサイト、Twitter、Instagramの更新の終了までアナウンスされている。

 突然の潔い空白ほど、人々の脳裏に残るものはない。だからこそ、彼女の歌声を忘れずに、歌手として武藤彩未が復帰する日を待ちたいのだ。武藤彩未を帰還させるために、私たちが唯一できることは「忘れないこと」だけなのだから。

(文=宗像明将)

■セットリスト
1.ミラクリエイション
2.Doki Doki
3.Daydreamin'
4.SEVENTEEN
5.宙
6.未来へのSign
7.時間というWonderland
8.女神のサジェスチョン
9.Pearl-White Eve(松田聖子)
10.桜ロマンス
11.とうめいしょうじょ
12.風のしっぽ
13.RUN RUN RUN
14.A.Y.M
15.交信曲第1番変ロ長調
16.パラレルワールド
17.HAPPY CHANCE
18.永遠と瞬間

<アンコール1>
19.明日の風
20.彩りの夏

<アンコール2>
21.OWARI WA HAJIMARI

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