ディアンジェロ&ザ・ヴァンガード来日公演の意義とは? サマーソニック&単独公演を宇野維正が考察

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 8月15日の夜は『SUMMER SONIC 2015』大阪のステージに、翌日16日の夜は『SUMMER SONIC 2015』東京のステージに、そしてその2日後の18日の夜はZepp Tokyoのステージに、ディアンジェロと彼の現在のバンドであるザ・ヴァンガードのメンバー、総勢11人が立った。ディアンジェロが日本のステージに立つのは、約20年前の業界関係者向けのコンベンションライブ以来2度目。つまり、ほとんどのオーディエンスが今回初めて「生ディアンジェロ」を体験したことになる(自分もそうだ)。その3回のステージのうち、自分は『SUMMER SONIC 2015』大阪を除く2回のステージを目撃することができた。正直、数日経った今もまだその余韻でボーッとしていて、完全にディアンジェ“ロス”状態なのだが、この歴史的なライブについて書き記しておかないわけにはいかない。

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 昨年12月に約15年ぶりに突然リリースされたサードアルバム『ブラック・メサイア』。そのタイミングでもいろんな場所で強調したのだが、あの作品の本当の意義は「ディアンジェロが15年ぶりにアルバムをリリースしたこと」以上に、「その作品がちゃんと15年分進化していたこと」にあった。これは古今東西、長いブランクを経て復活したミュージシャンの作品として非常に稀有なことだ。伝説的なバンドやミュージシャンの復活を待つファンは、まず、そのバンドやミュージシャンが「往年のトップフォーム」に戻っていることを期待する。そして、その復活がめでたく実現した時、その期待は場合によっては満たされることもあるし、半分くらいしか満たされないこともあるし、残念なことに全然満たされないこともある。

 国内外問わず音楽シーンの主軸が作品よりも興行になった現在、「新作なしの復活」というのも当たり前になった。多くのバンド、ミュージシャンが新作をリリースすることなくライブだけで復活する理由は、創作意欲やクリエイティヴィティの低下ということもあるだろうけれど、最大の理由は「下手に新作をリリースすることによって自らの伝説に傷をつけたくない」という恐れだろう。しかし、ディアンジェロはまず作品において「往年のトップフォーム」を取り戻すだけでなく、それを「超えて」きたのだ。いや、「超えて」というと語弊があるかもしれないな。自分だって、『Voodoo』と『ブラック・メサイア』、どっちが好きかと訊かれたら答えに窮する。こう言い直そう。ディアンジェロは「往年のトップフォーム」とは異なる「新しいトップフォーム」に今の自分があることを、『ブラック・メサイア』で見事に証明してみせたのだ。

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 その結果、今回のディアンジェロ&ザ・ヴァンガード来日公演は、いわゆる「レジェンド商売」のようなものから100万光年離れたものとなった。それは、特に単独公演のZepp Tokyoに押し寄せた超満員の2700人のオーディエンスに顕著だった。ちょうどその1ヶ月前、同じ会場で同じく超満員で行われたceroのツアーファイナルにも自分は足を運んだのだが、乱暴に言わせてもらえば、会場の外と中を見渡してみてその客層に大きな差が感じられなかった。もちろん、20年間ずっとディアンジェロの来日公演を待ち続けてきた人(自分もそうだ)もたくさんいただろう。でも、今回の単独公演に関していうなら、そんなオールドファンの熱を新規のファンの熱が凌駕していた。もし昨年末に『ブラック・メサイア』のリリースがなかったとしてもこのくらいの会場は余裕でソールドアウトになっていただろうが、客層は今回とはかなり異なったものになっていたのではないか。

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 1974年生まれのディアンジェロは現在41歳。結果として15年間もアルバムのインターバルが空いてしまったし、その期間、ヒグマのように太った写真(しかも警察に逮捕された時の証明写真!)がリークしたりしてファンを心配させてきたが、よく考えたら年齢的にはミュージシャンとしてまだ脂がのりきっていて当然の歳なのである(特にソウル/ファンク/ジャズの世界では41歳なんて青二才みたいなものだ)。直近のインタビューによると、『ブラック・メサイア』をリリースした後もライブの合間に、ここ数年間の膨大なセッション音源を素材にスタジオで続編の制作に取り組んでいる(まぁ、こういう話はディアンジェロに限らず往々にして結局作品として実らなかったりするので過大な期待は禁物だが)らしいし、まさに今、ディアンジェロはそのクリエイティヴィティのピークにあると言ってもいいだろう。また、3年前のヨーロッパでの復活ツアー、アメリカでのイベント出演、『ブラック・メサイア』リリース直後の一連のライブ、そして今年6月から本格的に始まったワールドツアーと、まるでこの夏に焦点を合わせてきたかのように、徐々にステージ勘を取り戻し、新しいバンド、ザ・ヴァンガードの面々との濃密なコミュニケーションをはかってきたことも大きい。つまりだ。我々がこの夏に日本で目撃したディアンジェロは、当代きっての天才ミュージシャンの、おそらくは何度目かの「全盛期」だったのだ。孫の代まで目撃したことを自慢できるライブとは、まさにこのこと。

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 巨大ステージ用に持ってきたブラック&ホワイトのバンドロゴの幕をバックに、タイトな構成の中にお約束の演出を詰め込んで、現在のディアンジェロの表現のエッセンスを見せきった約90分(後半の盛り上がりもすごかったが、前半の緊張感も今思えば貴重だった)の『SUMMER SONIC 2015』のステージ。『SUMMER SONIC 2015』におけるオーディエンスの熱狂的なリアクションにすっかり気をよくして(ああ見えてメチャクチャ繊細なディアンジェロにとって、これすごく重要なポイント)、手探りなしで初っ端から飛ばしまくっていた(ちょっと音上げすぎで低音割れてたけど)約120分のZepp Tokyoのステージ。フェイクの入れ方や各メンバーのソロのタイミングなど、中1日でここまで変化するのかと驚かされたが、いずれも甲乙つけがたい、すさまじく充実したライブを見せてくれたディアンジェロ&ザ・ヴァンガード。超プレミアとなった単独公演のチケットが入手できず、サマソニでしか見れなかったことを悔やんでいる人も大丈夫。ちゃんとサマソニのステージにも、その真髄のすべてがあったと保証します。

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