キスマイ『KIS-MY-WORLD』が傑作である理由 サウンドの方向性から読み解く

 いちいち書くとキリがないが、このように本作は良曲揃いの傑作である。二階堂高嗣&千賀健永「Double Up」も、80年代中盤のブラコンを現代的にアップデートしたような曲で、少し間違えればダサくなりそうにもかかわらず、素晴らしい曲に仕上がっている。プログラミング以降のブラック・コンテンポラリーとしては、ひとつの到達点ではないか。そのくらい、現代的に洗練されていると思った。そして、なんと言っても「ドキドキでYEEEAAAHHH!!」。この曲は、「ア、ソレソレ」というかけ声や間奏でのセリフなど、ノベルティ感が強く、本作のなかでは薄っぺらな歌謡曲のようにも思える。しかし、個人的にはこの曲は、キスマイのありうべき可能性を示していると思う。表層的なノベルティ感の背後で、ギターやシンセサイザーなどが、いかに細かいサウンドとして鳴らされているか。いかにビートの展開が練られているか。ディスコのノベルティ感と音楽的快楽を見事に抽出した、モーニング娘。の名曲「LOVEマシーン」を思い出した。「ドキドキでYEEEAAAHHH!!」にも、そういう国民的ヒットのポテンシャルを感じる。このような、ディスコのノベルティ性と快楽性を体現するという点において、なるほどいまのKis-My-Ft2はふさわしいだろう。ディスコの音楽性を現代的に洗練させつつ、しかもディスコの軽薄さは失わない。音楽的な現代性と軽薄さを両方兼ねてこそのポップスだ。そのような正しくポップスであることの可能性を『KIS-MY-WORLD』からは強く感じた。まぎれもなく傑作である。

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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