USインディー・シーンは果たして今もあるのか? 岡村詩野が5枚の新譜から考察

  今年頭に来日公演を実現させたニューヨーク在住のマック・デマルコのニュー・アルバム『Another One』は、これまで同様ブルックリンの人気レーベル、Captured Tracksから届けられたが、音の質感、アレンジ、演奏あらゆる点で、デマルコ自身のブラック・ミュージック指向に拍車がかかっているのが興味深い。いわゆるインディー・ポップ的なニュアンスで親しまれているところもあるが、収録の「No Other Heart」などはフュージョン~ARO~ジャズ・ロックを下地にしてポップ・ミュージックに落とし込んだような曲。使い勝手の決して良くない中古のプロフェット5で80年代的な音の感触を取り入れ、そこにソウル、ヒップホップの持つまろやかさ、甘さ、エロティシズムをリズミックに加えていく。もはや敵はマーク・ロンソンかファレルか、とさえ思えるようなポップでブライトなR&Bへの現代的なアプローチにはひたすら感心させられる思いだ。

  USアーティストではないがこれが個人名義では初作になるFlo Morrisseyの『Tomorrow Will Be Beautiful』は、かつて組んでいたユニット、9mary時代よりもグッと洗練されたソロ・デビュー作で本格的に活動開始。カレン・ダルトン、アン・ブリッグスなどを想起させる伝統的な英国フォーク系ながら、時折おどろおどろしく不気味にさえ思える歌い手としての強烈な表現力には20歳とは思えない器の大きさを感じてしまう。フランスのシャンソンに傾倒していたり、アントニー、ボン・イヴェール、マーヴィン・ゲイ、レナード・コーエンなど様々な アーティストの曲を自由にカヴァーしてSoundcloudでアップするなど、表現者としての歌に軸足を置いているところも頼もしい。本国イギリスではアデルの後継者的な評価も得ているようだが、その点では間違った位置づけではないかもしれない。

  こちらもUK、でもウェールズ出身の女性アーティスト、Gwenno SaundersによるGwennoのデビュー作『Y Dydd Olaf』。その名前を聞いて、もしやピンと来た人もいるかもしれない、彼女は00年代半ばに人気を集めた女性グループ、ザ・ピペッツのメンバー。彼女が ウェールズ出身とは聞いていたが、いつのまにか地元カーディフに戻り、旦那であり本作を元々制作した地元レーベル、Peskiのオーナーでもあるリース・ エドワーズのプロデュースのもとこんな素敵なソロ作を準備していたとは。ウェールズの作家、Owain Owainの同名近未来小説からタイトルを拝借したというだけあって、スーパー・ファーリー・アニマルズ、ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキといった地元の先輩たちや、ステレオラブやそのルーツにあたるクラウト・ロックなどの影響を受けた、カラフルでキッチュなサイファイ・ポップに仕上がっている。コンピューター・マジックへのウェールズからの回答といった側面も感じられるが、何よりウェールズ語にこだわったリリックをちゃんと読解したい。

■岡村詩野
音楽評論家。『ミュージック・マガジン』『朝日新聞』『VOGUE NIPPON』などで執筆中。東京と京都で『音楽ライター講座』の講師を担当している(東京は『オトトイの学校』にて。京都は手弁当で開催中)ほか、京都精華大学にて非常勤講師もつとめている。

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