St. Vincent来日公演レポート USインディの鬼才が見せた前衛性と親しみやすさ
2月20日、渋谷クラブクアトロにてセイント・ヴィンセント(St. Vincent)単独来日公演が行われた。
この公演に先立ちファンの話題をさらったのは、何と言っても昨年リリースされた4thアルバム『St. Vincent』が、第57回グラミー賞で最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバムを受賞したことだろう。2007年の1stアルバム『Marry Me』以来、コアな音楽ファンの間のみならず、“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてじわじわと知名度を上げてきたセイント・ヴィンセント。3rdアルバム『Strange Mercy』(2011)が各音楽誌で高評価を叩きだし、チャートでも全米19位と一気にステップアップした彼女は、矢継ぎ早にデヴィッド・バーンとの共作『Love This Giant』(2012)でさらに新しい地平に立ち、そして今回のグラミー受賞と順調にキャリアを積み重ねてきた。
USインディの鬼才という従来のイメージを越え、まさにアーティストとして絶頂期を迎えつつあるセイント・ヴィンセントの今の姿を目撃した。
会場となったクラブクアトロには、性別、年齢層から雰囲気まで、実に多種多様な音楽ファンが集った。中でも印象的なのは外国人客の多さで、おそらく3割程度がそうであったろう。この客層の多彩さは、そのまま彼女の音楽性――ポップだがアバンギャルド、知的だが変態的、そして何よりアーティスティック――を雄弁に物語る。これから始まるショーは、いかなる枠組みにも収まりきらない、創造的でエキサイティングなものであることを予感させる雰囲気だ。
そんな中、黒のノースリーブ姿で現れたセイント・ヴィンセントは、息をのむほどの美しさをたたえていた。みなぎるインテリジェンスとほとばしる妖気は、あの才人・デヴィッド・バーンを魅了するのもさもありなん、彼女の圧倒的な存在感が着火寸前に仕上がっていた会場に一気に火を放つ。
奇妙なロボットダンスから始まったのは、『St. Vincent』のオープニングトラックでもある「Rattlesnake」。打ち込みのダンスビートに乗せて、確実に盤よりも強力なヴォーカルを重ねていく。そして曲の途中で彼女がギターを背負うと、観客の興奮は早くも最高潮に。彼女がゼロ年代以降のシーンにおいて卓越したギタリストであることは、ファンにとっては周知の事実だ。さらに「Digital Witness」「Cruel」と、強靭なビートとポップなメロディを備えたナンバーを連発する。