新作『わたくしの二十世紀』について語り合う

小西康陽 × 西寺郷太が語る、楽曲と言葉の強さ 「歌詞カードだけを読んで満足する曲は作りたくない」

小西康陽と西寺郷太。

 小西康陽のソロ・ユニット、PIZZICATO ONEの4年ぶりの新作『わたくしの二十世紀』が完成した。UAや小泉今日子、ムッシュかまやつなど、11人のシンガーをフィーチャーした本作は、PIZZICATO FIVEの歴代楽曲を中心にして、これまで小西が手掛けてきた曲をセルフカヴァー。アコースティックな楽器の音色と研ぎ澄まされたアレンジが、シンガーの魅力的な声を引き立たせる。そんななか、参加したシンガーのなかでは数少ない男性シンガーで、最も多い3曲に参加しているのがNONA REEVESの西寺郷太だ。小西と同じようにソングライター/プロデューサーとして活躍する西寺が、シンガーとして小西とコラボレートするのは今回が初めてのこと。多才な才能を発揮する2人の共演の舞台裏を聞いた。

――お2人とも付き合いは長いですが、小西さんの気持ちのなかで、いつか西寺さんとやってみたいという思いは以前からあったんですか?

小西康陽(以下、小西):ありました。NONAの初期の作品に「DJ! DJ! ~とどかぬ想い~」という曲があるんですが、それがいつも僕のレコードバッグに常駐しているんです。ことあるごとにプレイする楽曲なので、僕にとって郷太くんの声は非常に親しみのある声なんですね。「いつか郷太くんをボーカルに起用した曲を作りたい」という気持ちはあったので、実は今作を制作するにあたって、いの一番に思いついたシンガーだったんです。

西寺郷太(以下、西寺):ありがたいですね。実は僕、プロデューサーや作詞・作曲・編曲で声をかけてもらうことは多いんですが、純粋にシンガーとして呼ばれることってあまりないんです。小西さんの作品に歌手として呼んでもらったっていうのは、なによりもうれしかったです。

――具体的に西寺さんの歌声のどんなところがアルバムにフィットすると思ったんですか?

小西:誰が聴いてもわかるようにソウル・ミュージックを通った声、そしてすごく繊細な声の持ち主でもある。そのふたつが大きかったかな。

西寺:小西さんに「郷太くんはジョージ・マイケルみたいなニュアンスがいいよね」みたいなことを言ってもらったんですよ。これまでアッパーでリズミックな曲を歌うことが多かったんですけど、ちょっと物悲しい部分がある曲をオーダーしてもらったのもうれしかった。

 今作に参加するにあたり、ひとつだけ決めてたことがあって、自分の意見を言わないでおこうと思ってたんです。ビートたけしさんが「映画監督も俳優もやるけど、俳優を演じるときは監督に言われた通りにやる」ってインタビューでおっしゃっていたんですけど、まさにそれを忠実に遂行したい、と。プロデュースを手掛けるときは「こんなコードは? 歌い方は、どうかな?」とかいろいろ提案するけど、今回は小西さんという監督がいるので、すべて委ねるところこそが最大のポイントで、そのおかげで歌手として新しい扉を開いてもらったと思います。

小西:今作の収録曲「日曜日」のレコーディングは、特に印象深かったですね。これは昔作った3曲(「日曜日の印象」「おかしな恋人・その他の恋人」「新しい歌」)をつないだ曲なんですけど、「おかしな恋人・その他の恋人」の歌詞は僕で、曲を書いたのは鴨宮諒さんなんです。そのパートだけ、なぜか郷太くんがうまく歌えていなく、「郷太くんも人間的な部分があるな」ってわかって好感を持ったと言いますか……(笑)。

西寺:自分で曲も書くので、次にくるメロディを勝手に想像しちゃうんですよね(笑)。それが自分とは違うルールで書かれた曲を歌うとなると、違和感を覚えてしまって(笑)。小西さんが書いた曲は自分と似ているとは言いませんけど、モータウンや(バート)バカラック、「次にこれがくる!」っていうスウィート・ポイントがわかるので、すぐに体になじむんですよね。そういった意味で、鴨宮さんの作るメロディは、今回歌ってみてとても勉強になりました。

 それと今回僕が歌った曲、そのほかの曲もそうですが、ほとんどがドラムレスの楽曲なんです。今まで自分の良いところは、ドラムに対しての反応だと思ってたんですね。シンガーとラッパーの中間というか。「日曜日」はピアノ一本で歌ったわけですが、これまでシンガーとして未経験のことだったので、すごく新鮮に感じました。

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