小西康陽 × 西寺郷太が語る、楽曲と言葉の強さ 「歌詞カードだけを読んで満足する曲は作りたくない」

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――西寺さんが歌った3曲のうち、2曲はenahaさんとのデュエットですね。

小西:僕も彼女とは面識はなかったんですけど、声のサンプルを聴いてすごく気に入ったんです。この人は絶対に素晴らしいと思って。それで彼女のボーカルに合う曲を考えたら、郷太くんにデュエットしてもらおうと思っていた曲だったんですよ。

西寺:僕もenahaさんとは今回スタジオで初めてお会いして、それでいきなり「同じベッドで抱きあって死ねるならね」という情熱的な言葉のラブソング(「マジック・カーペット・ライド」)をデュエットするっていう(笑)。すごいフィクションというか、まさに歌の世界だから成立することですよね。

――そういえば「マジック・カーペット・ライド」と「恋のテレビジョン・エイジ」は「いつもでもふたり 遊んで暮らせるならね」という同じ歌詞を共有している曲ですね。やはりこの曲は、小西さんとしては同じシンガーに歌ってもらいたかった?

小西:もちろん。この2曲は同じ人が歌わないと意味がなくて、「日曜日」は「恋のテレビジョン・エイジ」の“片割れ”が歌うべき曲ですから。実は今作に収録したセルフカヴァーって、僕がこれまで暮らしてきたなかで、節目節目に出来上がった曲が多いんです。特に郷太くんに歌ってもらった曲は、僕と最初の奥さんとの関係から生まれた曲で。

 そういえばこの間、阿佐ヶ谷の映画館で志賀直哉原作の映画を2本立て続けに観たんですよ。どちらも志賀直哉自身が主人公なんですけど、演じているのが池部良なんです。僕も自分の心の中のどこかに、「自分の役を演じてもらうのであれば、二枚目にお願いしたい」という気持ちがあって。目の前にして言うのもなんだけど……郷太くんは声だけ聴いたらほんと二枚目だから(笑)。

西寺:それ、筒美京平さんにも言われたことあるんですよ! 「目を閉じると完璧な美少年がそこにいる」って(笑)。もう15年も前の話ですが。でも、「鏡の中のありふれた男」(「日曜日」)なんて自分のことのようでグッときましたよ(笑)。今回僕はアルバムで得な役回りを演じさせていただいなと思っているんです。小西さんの歌は野宮真貴さんや野本かりあさんなど、美しい女性が歌うイメージが強いと思うんです。でも、今回こうして男性シンガーが歌ってもスッとハマる歌詞だということが伝わるんじゃないかなって。

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――するとアルバムに参加してみて、改めて小西さんの曲の魅力はどんなところだと感じましたか?

西寺:歌詞をすごく大切にされてきたんだなって感じました。以前、小西さんに僕がパーソナリティを務めるラジオ番組にゲストで出演してもらったことがあるんですが、そのときに「一度聴いて言葉が理解できる歌詞を書き、ディレクションを行う」って話されたんですね。僕みたいに自分で曲を書いて歌う者は、自分が歌いやすい言葉を歌っているというか、どこか歌詞をやり過ごしてしまっているような部分がある気がしていて。小西さんはボーカルを立てて曲を作られることが多いので、「このボーカリストがこの曲を歌ったらどうなるか?」ということを重きを置いて曲を作ってきた分、歌詞についてにストイックに向き合っている。だからこその言葉の強さを感じました。

小西:歌詞カードだけを読んで満足するような曲は作りたくないんです。歌詞とメロディは切り離せない関係にあるから、本当のこというと歌詞カードなんていらないと思っているくらい。このアルバムに参加してくれたボーカリストたちは、歌詞カードを見なくても、すべての言葉が体から自然に発されるように歌ってくれている、そんな感覚がありました。

――11人のシンガーが歌っているのに、とてもパーソナルな雰囲気を持っているアルバムですよね。11の声を持ったシンガー・ソングライターのアルバムのような。

小西:編曲やリミックスでずいぶん仕事をさせてもらった時期がありましたけど、基本的に僕は詩と曲を作る人間だって思っていて、作詞作曲だけでもこれぐらいのことができるんだ、っていうことを今作で訴えたいんですよ。いつか郷太くんも『わたくしの二十世紀』のような作品を作ると思いますし。

西寺:小西さんにそう言われて、「小西さん、ぜひ作ってください!」ってお願いしたら「自分でやれ!」って言われましたけどね(笑)。

小西:例えばジョージ・マイケルがギター一本とかストリングスだけで歌ったレコードがあったら、絶対買うでしょ?

西寺:ですね。僕、マイケル・ジャクソンが亡くなったとき、「ピアノ一本だけでいいから、カヴァー・アルバムを作ってほしかった」って感じたんです。贅沢な制作費をかけなくてもいいから、短期間でレコーディングしたマイケルのスタンダード・カヴァー集。そんなアルバムを聴きたかったんです。最近、NONAでカフェ・ライブなどをやっているんですけど、今後はアコースティックなライブもやっていきたいなって、このアルバムを通じて思わされました。

小西:ばっちりストリングスが入ってる作品、期待してるよ。

西寺:『ぼくなりの二十世紀』作り、がんばります(笑)。

(取材・文=村尾泰郎)

■リリース情報
『わたくしの二十世紀』
発売:6月24日
価格:3,240円(税込)

1. 聴こえる?
2. 私が死んでも feat. おおたえみり
3. 東京の街に雪が降る日、ふたりの恋は終わった。 feat. ミズノマリ
4. 恋のテレビジョン・エイジ feat. 西寺郷太 & enaha
5. 戦争は終わった feat. YOU
6. あなたのいない世界で feat. 市川実和子
7. ゴンドラの歌 feat. ムッシュかまやつ
8. かなしいうわさ feat. UA
9. フラワー・ドラム・ソング feat. 甲田益也子
10. 日曜日 feat. 西寺郷太
11. きみになりたい feat. 吉川智子
12. 昨日のつづき feat. 吉川智子
13. 12月24日 feat. ミズノマリ
14. 私の人生、人生の夏 feat. 小泉今日子
15. 美しい星 feat. 甲田益也子
16. マジック・カーペット・ライド feat. 西寺郷太 & enaha

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