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『NIHON ~ハレバレ~』リリースインタビュー

谷村新司が語る、アジアと日本のポップス論「ヨナ抜き音階が何を意味するのか、10年間探求しました」

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「和音階というのは、世界的に見ても特別な音階」

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――ライブ活動は2003年に一度リセットされて、近年はまた復活しつつありますが、70~80年代のあたりは年間にどのくらいのライブをされていたんですか?

谷村:300本くらいですね。

――ほぼ毎日ですね。当時、体調を維持するのは大変だったのでは?

谷村:あまり意識せずにやっていましたね。音楽をやっていることがひたすら楽しかった時期だったし、学園祭のシーズンは1日5本とか掛け持ちでやっていました。でも、仕事という意識はなくて、本当に好きなことをやれている喜びのほうが強かったので、辛いと思ったことはほとんどないです。レコーディングは音楽をカタチとして一枚に込める作業ですが、音楽がいちばん呼吸して活き活きするのはやっぱりライブだと思います。だから、ライブをしっかり続けているアーティストには心から拍手を送りたいですね。

――ライブでほぼ日本全国を回った感じでしょうか。

谷村:日本全国、ほぼ網羅していると思います。2007年から「ココロの学校」という、自分のギター一本とピアニストのみでコンサートをするというプロジェクトをスタートしていて、なるべく新幹線が止まらない駅がある街や、アーティストが普段あまり行かない場所に訪れる機会が増えて、「初めて行く場所が、まだこんなにあるのか」という新鮮さが未だにあります。必要最小限の編成なので、大掛かりなユニットを組んで費用のかかるプロジェクトを組む必要がないんです。そうすると、呼んで頂く方も声をかけやすいですよね。これからは、音を届ける側もそういう選択肢を増やすべきだと思います。常にバンドを背負っていると、ピアノ一台だけとか、ギター一本のみで歌うのは、すごく勇気がいることになりますよね。でも、ある意味究極のカタチだと思うし、なによりシンプルにすることの楽しさを知った。それが成立していれば、今度はオーケストラとコラボレーションすることもできる。どんな形でも、それぞれに違った楽しみ方があるんですよね。

――谷村さんは中国でも活動されていますが、観客の反応は日本とは違いますか。

谷村:アリスとして81年に国交正常化10周年の機会を頂き中国大陸を訪れましたが、それが当時言論統制が厳しかった同国にとってはじめて「ポップス」が流れた瞬間でした。その後20年間、アジアの国々を毎年まわっていたのですが、大体どの国に行っても「初めて見る日本人だ」と言われました。当時は、そのくらい誰もアジアに行っていなかったんですね。でも、日本語で歌っても、観客からはちゃんと反応がありました。僕らが英語がわからなくても曲に反応するのと同じなんです。だから、自分の言葉に誇りを持って歌うことができたし、アジアの人々にもそうした意識は伝わったんじゃないかと思います。その後、母国語でポップスを歌ってビックネームになったアーティストもたくさんいるので、それはすごく嬉しいですね。

――新作『NIHON ~ハレバレ~』は中国での活動がきっかけとなって生まれた作品で、そこには長年温めていたコンセプトがあると聞いています。

谷村:はい。もう12年ほど前の2003年頃に一度、自分の生き方をリセットした時があったんです。スケジュールを白紙にして事務所をたたみ、これから60歳になった時にどういう生き方をしていたいか考えようと思いました。ちょうどその時、上海の国立音楽学院から「常任の教授になりませんか」というお話をいただきました。それまで教壇に立ったことはないですし、中国の生徒に「日本ってどんな国ですか?」と訊かれたらどう答えられるのかな、とふと疑問に思ったんです。そこで、日本について知っているつもりでも本当は知らないことだらけだと気がつきました。僕らは普段よく自国のことを「ニッポン」と言っていますが、このアルバムは「ニホン」としました。というのも、「ニホンとニッポン、どっちが正しいんですか?」と訊かれた時に、当時の僕は答えられなかったんです。それをきっかけとして日本の文化について調べていくうち、僕らが当たり前のように使っている言葉や風習には深い意味があることに気づかされていきました。それを学んでいくうちにようやく音楽で表現できる段階に辿り着いて、今回のアルバムを出すことになりました。曲作りの際も、難しく作ろうと思えばもっと早く完成したのでしょうが、聞く人がさらりと聞き流しても大丈夫なように趣向を凝らしたので、結果として12年の月日が必要でした。

――たとえば、音楽に関してはどのような探究をされたのですか。

谷村:じつは日本の和音階というのは、世界的に見ても特別な音階なんです。大きな特徴として、半音がない。まず、これはどうしてなのかなと疑問に思いました。「半音がない」ということは、学校でも教えてくれるんです。ただ、「どうしてないのか」という子供たちがいちばん疑問に思うことについては、誰も答えてくれない。さらに、沖縄の音階になると「レ」と「ラ」がない。これもよく考えたら不思議ですよね。ただ、文献などには答えが載っていないので、自分が納得する理由を探究したんです。

――なぜ半音がないとお考えですか。

谷村:音にはそれぞれ意味があって、日本に生まれた人の持つべきテーマが、「ファ」と「シ」というふたつの欠けた音にあるのだという答えに僕はたどりつきました。「ファ」というのは風の音で、これはとどまらない、常ではない、つまりは無常観を意味している。それから「シ」の音には形が終わるという意味があって、まさにDEAD、死をあらわすんです。それはつまり、死生観のことですね。「ファ」と「シ」で、無常観と死生観。これは日本人にとって、大きなテーマだと思います。それをいままで無意識に自分が歌っていたことに気づいて、すごく腑に落ちたんです。

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