小西康陽はなぜリスペクトされ続ける? アイドルによるピチカート・カバー集を機に考える

 また、ゼロ年代以降のシーンを牽引する音楽作家には、小西に影響を受けたと公言する人物も多い。

「ゼロ年代に現れた二人の代表的な作家、中田ヤスタカと前山田健一(ヒャダイン)は、いずれも小西の影響を直接的に受けています。中田はPerfume、前山田はももいろクローバーZとでんぱ組.incなどで、それぞれアイドルをポップアイコンとして見立てたプロデュースを行っていましたし、Negiccoのプロデューサーであるconnieもまた、小西に強い影響を受けている一人。つまり、Negiccoはピチカートの系譜を受け継いだ存在といえるんです。今回の『アイドルばかりピチカート -小西康陽×T-Palette Records-』にNegiccoが歌う楽曲が入るのは、ピチカートの楽曲や方法論がアイドルブーム以降の今の時代にフィットしたことの結実だといえます。また、小西の書く曲は女の子を輝かせるものが多いため、バニラビーンズやlyrical schoolなどのアイドルが歌うことがしっくりきて、彼女たちにとってもプラスのものになるでしょう」

 続けて同氏は、彼の書く歌詞が生む批評性やオリジナリティも、他に真似のできないものであると分析した。

「小西が作詞・作曲を手掛けたものは、ハッピーな曲でもどこか俯瞰の視点で見ていたり、皮肉が盛り込まれている両義性があったりします。ピチカートでは『ハッピー・サッド』がその最たる例ですし、Negiccoに書いた『アイドルばかり聴かないで』も、メタ的な表現含め、彼にしか書けない強い記名性がありました。それが、彼の提供する楽曲の魅力にもなっています。逆に2000年代末以降は内省的でパーソナルな表現を志向する時期もあり、評価も高かったんですが、セールス的には比較的大きな成果はおさめていなかった。やはり多くのリスナーが求めるのは彼がポップアイコンに託す独特のアイロニカルな洒脱さなのだと思います」

 柴氏は最後に、小西の作る楽曲の強度と時代の移り変わりについてこう述べた。

「小西の作る楽曲は、先ほどもお話したように記名性が強いため、どこのフィールドに行っても目立つものになる。だから、あるブームが仮に終わっても、ポップアイコンの対象を変え、彼の音楽は表舞台に残り続けることでしょう」

 ソングライターとして様々なシーンからの評価が高い小西の楽曲。『アイドルばかりピチカート -小西康陽×T-Palette Records-』では、それがどう彼女たちのファンに受け入れられるのか、今から反応が楽しみだ。

(文=編集部)

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