市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第11回

「ももクロ vs KISS」が見せた“捨て身アイドル”の真髄 市川哲史がドーム公演を振り返る(ももクロ目線ver)

参考:KISSが日本の音楽に与えた影響とは? 市川哲史が「ももクロ vs KISS公演」を振り返る(KISS目線ver)

 個人的には、よく練られた“夢の浮世に咲いてみな”より単に能天気な“ロックンロール・オールナイト”のカヴァーの方が弾けてた《KISS vs ももクロ》。それでもここんとこの、セーラームーンやらドラゴンボールやらとの「真面目」なタイアップ曲に較べれば、いろいろ愉しませてくれたのは事実だ。

 それにしてもこの〈日米飛び道具同士コラボ〉の何がいちばん凄かったかというと、「なぜいま?」的な必然性も背景も脈絡も一切なく実現した点だろう。わははは。

 「相変わらず」と言ってしまえばそれまでだが、ももクロに巣食う昭和サブカルチャー・テイストは、KISSまで巻き込むほど不動なわけだ。

 ざっとおさらいしてみる。

サブカル大人たちの夢やロマンを吸い寄せたももクロ

 まずやたら多かったのが、アウェーな他流試合への積極的な参戦。

 神聖かまってちゃんとの対バンライヴを皮切りに、《LOUD PARK》《Ozzfest Japan 》といったメタルフェスやら《サマーソニック》《氣志團万博》のロックフェスやら、そしてアニソンイベント《Animelo Summer Live》やらにも出演。更には全日本プロレスにK-1にNHK福祉大相撲に東北楽天ゴールデンイーグルスのファン感謝デーへの参戦と、異種格闘技戦だらけだった。なんかどれもこれもマニアの巣窟ぽくってたまらない。

 そして各種ネーミング。

 ツアータイトルの《新秋ジャイアントシリーズ》やトーク対決イベント《試練の七番勝負》は、ジャイアント馬場時代の全日本プロレスから。《モーレツ☆大航海ツアー2012》は昭和の流行語。毎年子供の日に開催されたライヴ&コント&ヒーローショーの《守れ!みんなの東武動物公園 戦え!ももいろアニマルZ》は戦隊ヒーロー物で、《ももクロの子供祭りだョ!全員集合》はドリフターズか。

 どうだこのインスパイア先、もとい元ネタの極端な偏り方が半端じゃない。

 ライヴのゲスト出演陣も常連・松崎しげるを筆頭に、南こうせつ・広瀬香美・加藤茶・林家ペー&パー子・角田信明など、客席の10代少年少女の頭上に「?」の吹きだしが浮かんだであろう「昔のひと」だらけである。ステージで演奏を披露した布袋寅泰やマーティー・フリードマンや吉田兄弟さえ、無事認知されているのか怪しい。

 あげく百田夏菜子は、ももクロ初武道館のステージで「ライヴハウス武道館にようこそ!」とかました。元ネタはもちろん、氷室京介が四半世紀前にBOφWY初武道館公演で吐いたバンドブーム史上に残る伝説のMCだったりする。

 武藤敬司の<プロレスLOVE>ポーズや必殺技〈シャイニング・ウィザード〉が、楽曲の振付にフィーチュアされたこともあった。無反省コント「あリーダーに、怒られた」なんて、オリジナルを知る者の方が少ないのではないか。本人も含め。

 まだまだあるぞ。1stアルバムのタイトル『バトル アンド ロマンス』とは、1992年に天龍源一郎が旗揚げしたプロレス団体・WARの正式名称「Wrestle And Romance」が下敷き。楽曲タイトルも“Z伝説~終わりなき革命~”“労働讃歌”“猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」”“Z女戦争”“サラバ、愛しき悲しみたちよ”などと、昭和生まれクリエイターたちのてめえ勝手な表現衝動が無遠慮に炸裂し続けている。

 もはや運営サイドというか制作サイドというか、大きなおともだちたちが寄ってたかって、己れのサブカル趣味をももクロに一方的に託しているだけなのだ。

 そりゃさぞ愉しいだろうよ。

 にもかかわらず〈やらされてる感ゼロ〉の豪快っぷりこそが、ももクロ最大の武器なのである。

 だから『ももクロChan』の企画〈抜き打ち歌詞テスト〉で、ももクロが歌詞を理解しないまま唄っていることが判明しても、自分たちの作品やコントの「元ネタがわからない」と豪語しても、ただただその潔さがリスペクトされるだけに他ならない。

 だから2ndアルバム『5TH DEMENTION』がわざわざアナログレコードでも発売された理由も、誰もがベスト盤もどきのアルバムしか出せない時代にあえてコンセプト・アルバムを制作した方針も、その全国ツアーがアルバム収録全曲を曲順通り披露した意図も、彼女たちにはどうでもいいことだ。「KISSさん」とのお仕事、もまた同様だろう。

 というか私は、大のサブカル大人たちの勝手な夢やロマンをなぜか吸い寄せてしまう、ももクロの求心力がおそろしい。しかも彼女たちはまったく理解せぬまま愉しんでるのだから、手が着けられない。

 まさに、ももいろクローバーZは〈真空のアイドル〉なのであった。

 うわ、私の比喩も昭和っぽい。

関連記事