女王蜂はポップ・ミュージックの真ん中へーー新作『奇麗』に込められた音楽への愛

 曲の幅もとにかく広い。照れながらも純愛に落ちていく「ワンダーキス」はPerfumeが歌ってもおかしくないスイートなポップスであり、アコギ一本でしみじみ歌われる「髪の毛」はイルカあたりが爪弾いていた気がする(くらい懐かしくて普遍的な)フォークの佳曲。過去の怨念が爆発する「折り鶴」はストーリーの激しさにまず圧倒されるが、押し寄せる激情が童謡「七つの子」のフレーズ絡めながらドラマティックに盛り上がり、原作の歌詞のスピンオフになってポトンと堕ちていくエンディングがあまりにも秀逸。ラストのパンキッシュな「緊急事態」の開放感といったら、転調を繰り返しながら喜びを歌い上げるアヴちゃんの姿に、もう神々しさしか感じないくらいである。
 
 アヴちゃんのキャラクターは、すでに多くの人に浸透している。PARCOやTOYOTAのイメージモデルにも起用されたが、そのキャッチコピーが「常識に尻を向けろ」だったように、あくまでエキセントリックな存在、ジェンダーもコモンセンスも超越したスターとしての注目だったと思う。ファッションだけで「すげぇ」と騒がれるが、本人は超然と「これが私には自然なのよ」と微笑んでいる、いわばレディ・ガガのような存在。まぁ、そういう見方も間違いではないのだろうが。

 ただ、ゴシップ誌が書かない事実として、ガガはファッションセンス以上に音楽的素養がとても良いのである。リズム主体で攻めるビヨンセに比べても旋律の良さを重視するクラシカルな保守派と言ってもいい。書くメロディは普遍的で、歌唱力は抜群で。ポップスとしての芯が強いからこそ、曲は耳に残るしガガの話題は終わらないのだ。アヴちゃんもきっと、いや必ずそういう音楽家になるだろうと、『奇麗』を聴いて確信した次第。

 多くの人に浸透していても、まだ爆発的に売れているわけじゃない。何かのシーンの中心的存在でもない。ただ、「デスコ」のMVを面白がっていたけどそこから活動休止でよくわかんなくなっちゃった、などと思っている人がいるのなら、本当にもったいない話。インパクトではなく音楽を語ろう。女王蜂はこれから本気でポップ・ミュージックの真ん中を狙っていくのだから。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

■リリース情報
『奇麗』
発売:2015年3月25日
収録曲:
01. 一騎討ち
02. 泡姫様
03. もう一度欲しがって
04. ワンダーキス
05. ヴィーナス
06. 髪の毛
07. 折り鶴
08. 売春
09. 始発
10. 緊急事態

・初回生産限定盤特典:完全オリジナル映像作品「残酷」(DVD/収録時間:45分)
・アヴちゃんオリジナル小説「残酷」
・特殊パッケージ:紙ジャケット

初回盤(CD+DVD) AICL2851-2852 ¥3,889(税抜)
通常盤 (CD ONLY) AICL2853 ¥2,778(税抜)

■ライブ情報
アルバム『奇麗』リリースツアー 「女神たちの売春」
5月17 日(日) 札幌PENNY LANE24
5月20日(水) 名古屋 ElectricLadyLand
5月22日(金) 大阪 ・umeda AKASO
5月24日(日) 福岡 DRUM Be-1
5月31日(日) 広島 Cave-Be
6月5日(金) 仙台MACANA
6月27日(土) 東京 ・ 赤坂BLITZ

【チケットオフィシャル第二次先行受付】 ※抽選制
オフィシャル先行(先着)
【期間】3/25(水)12:00~4/2(木)18:00
【URL】 http://eplus.jp/zv15/ (PC・携帯・スマホ)

■女王蜂公式サイト:http://ziyoou-vachi.com

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