西寺郷太が語る、マイケル・ジャクソンとの出会い「最初に『ヴィクトリー』を買ったのは大きかった」

自分の好みを追求しはじめた10代前半

ーー西寺さんが洋楽にのめりこんで、深く掘りさげるようになっていったきっかけは。

西寺:初めは僕に音楽を教えてくれた2〜3歳上の先輩がいて、その人の真似ばっかりしていたんです。それこそマイケルも、ワム!やカルチャー・クラブやスタイル・カウンシルも最初はその人が聴かせてくれて、大好きになりました。彼にしてみても、僕は年下でも音楽にちゃんと反応する人間だったから、レコードやビデオを手に入れたら一緒に観ようって感じだったのだと思います。ただ、この先輩は途中から急激にハード・ロックやメタルが好きになるんです。マイケル・シェンカーやレインボー、ラット、モトリー・クルー、シンデレラとかを好きになっていって、それをおすすめしてくるようになったのですが、それがびっくりするくらい好きになれなくて。自分でも驚きでした。それまでは、まるで分身のようになんでも彼に影響を受けて夢中になっていたのに。マイケル・シェンカーのアルバム『ロック・ウィル・ネヴァー・ダイ』(84年)を返すときに「俺はこういうタイプの激しい音楽はあまり好きじゃないかもしれない」と初めて言ったんです。当時小6くらいですかね。そしたら中2だった彼が「郷太、お前も大人になったな」って言ったのよくおぼえてます(笑)。今にして思えば当時の自分はグルーヴィなもの、それもいわゆる「真っ黒」なファンクやR&Bじゃなく、ブルー・アイド・ソウル的なものが好きだってことを言いたかったんだと思います。そこで、自分が好きな音楽というものがあるんだなということに気づきました。そうなるとその先輩とも音楽の話題があわなくなり、完全に孤独になったんです。それで結局、自力でそこを掘り続けることになって、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーなどモータウンと出会うことになるんです。レコード屋さんなどでお店に教わったというのもあります。当時、1枚のレコードを買うのは、2万円くらいの感覚だったので、かなり迷って買っていました。試聴させてもらったり、東郷かおる子さん、湯川れい子さん、渋谷陽一さんの書かれた文章や本、雑誌もたくさん読んでいました。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズは小学生のころに聴きました。そのあとにパンクってどんなに過激なんだろうと思ってセックス・ピストルズを聴いてみたのですが、想像していたよりも普通で、キャッチーで良質なポップスだなぁと思ったのをおぼえています。レッド・ツェッペリンは小6のころに買ったんですけど、10代のころは良さがわかりませんでした。大学生のころくらいですかね、やっぱツェッペリンすごいなぁと思ったのは。

ーー西寺さんの基本的な音楽観は、ブラック・ミュージックを軸としているわけではないのですか。

西寺:広く言えばそうなんですけど、鈴木雅之さんやゴスペラーズのみなさん、松尾潔さんとは少し違う感覚なのかなと思ってます。ブラック・ミュージックの「神髄」みたいなものからはズレてますね。僕は。トッド・ラングレンの初期や、ホール&オーツや、カルチャー・クラブ、ワム!、ブロウ・モンキーズ、そういう捉え方がいちばん好きなんです。そういった意味でギリギリ近いのは橋本徹さんだと思います。結果的に彼がフリーソウルのコンピレーションとしてリリースしはじめたとき、ブルー・アイド・ソウル的なさわやかでキュンとするような感じが多かったですよね。僕は、世代が少し下なので橋本さんとも時代感覚はもちろんジャストではないんですが、感覚的にはのちの90年代のいわゆる渋谷系に近い感じかと。言ってみれば“入り混ざった面白さ”が好きというか。もちろん、先に名前を挙げたそれぞれのアーティストも「混ぜてる」んですが、なんとなく流儀、宗派の違いのようなものは感じますね。ともかく黒人音楽に影響を受けた黒人音楽ではないもの……のほうが好きというのが僕の感覚です。僕がジャニーズのアーティストに曲を書いているのが楽しいのも、ある種折衷した面白さがあるからで、だからイギリス人が歌うソウルが好きなんです。

ーーそれらの音楽を聴くときに、いちばん重視しているポイントは。

西寺:シンガーの声は重要視しています。たとえば、マーヴィン・ゲイやマイケル・ジャクソンが好きなのも、正直このふたりが歌っていたらなんでも好きという部分はあります。だから作曲家、作詞家やプロデューサーを追いかけていろんなB級のシンガーものを集めるという趣味はあまりないです。ジョージ・マイケルもそうで、この人の声好きだなと思ったら、長いキャリアをずっと聴いて結果的に誰よりも詳しくなってきたのが僕の音楽人生ですね。ペット・ショップ・ボーイズのニール・テナントもそうです。声が好き。感覚としては落語に近いかも。この噺家が好きなら、どんな話でも面白い、なんでもいいから話しててほしい、語りのリズムが好き、そういうことってあるでしょう?

ーーなるほど。では、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーを掘っていくようになってから、第2のターニングポイントとなった作品は?

西寺:マーヴィン・ゲイの『アイ・ウォント・ユー』(76年)というアルバムですね。そもそも、中1のころには名盤特集のようなものでいつも出てくるので『ホワッツ・ゴーイン・オン』(71年)を買って聴いているんですが、そのときの感想は正直「優しいな。ええ曲やな」くらいでした。数年経って僕は大学1年のとき新宿のレーザーディスク屋でバイトしていて、そこでは働いている間に自分の好きなディスクをかけることができたんです。そこであるとき、ライブ盤LDなど1カ月ぶっとうしでマーヴィン・ゲイをずっとかけていたら、突然頭のなかが「パッカーン」ってなったんです(笑)。天空から店中にマーヴィンの声がシャワーのように、ミストみたいに降ってきて実際に濡れたかと思ったほどです。本当なんですよ(笑)。音楽でチャクラを開くような感覚でした。あれはすごい経験で、その瞬間から人生が変わりました。それまではうだつのあがらないバンドも組めない音楽オタクだったのが、そこからプロになってとんとん拍子でこういう状態になれたのは、あの日以降にすべてが変わったからだと思います。ちなみに僕のバンド、NONA REEVESは、マーヴィン・ゲイの娘のノーナからとったものです。(続きは『80’s洋楽読本』で)

(取材・文=blueprint/写真=竹内洋平)

■書籍情報
『80’s洋楽読本』
発売日:1月26日(月)
定価:本体1400円+税 
発行:洋泉社

【インタビュー】
●石野卓球(電気グルーヴ)
●カジヒデキ
●片寄明人(GREAT3)
●Zeebra
●高木完
●西寺郷太(NONA REEVES)
●ハヤシ(POLYSICS)
●松武秀樹

●大根仁(映像ディレクター)
●小野島大(音楽評論家/元『NEWSWAVE』編集長)
●恩藏茂(元『FMステーション』編集長)
●東郷かおる子(元『ミュージック・ライフ』編集長)
●高橋芳朗(音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティ)
●平山善成(クリエイティブマンプロダクション)

【執筆者】
猪又孝
井上トシユキ
円堂都司昭
岡村詩野
小野島 大
北濱信哉
栗原裕一郎
さやわか
柴 那典
鈴木喜之
高岡洋詞
麦倉正樹
宗像明将
吉羽さおり

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