斉藤和義は“理想のポジション”をどう築いたか? 消費されないミュージシャン像を探る

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 斉藤和義の勢いが止まらない。デビュー20周年となった昨年は、初のさいたまスーパーアリーナ公演を大成功に収め、2枚同時発売のアルバム『斉藤』と『和義』はオリコンの2位と3位にランクイン。この2作品を従えて回ったツアーでは全国55都市62公演を周り、約14万人を動員している。さらに、いつそんな時間があったのか今年の秋には中村達也とのユニットMANNISH BOYSで2枚目のアルバム(これが最高にクール!)を完成させ、同時にCMやドラマのタイアップとして新曲「Endless」と「ワンダーランド」も書き下ろしているのだ。

 脂が乗りまくっている。売れに売れている。全国のメディアやイベンターから引っ張りだこ。近年の斉藤はまさにそういう状況なのだが、なんだろう、いかにもトップスターでございというオーラがまったく感じられない。もちろんいい意味でだ。これだけタイアップに恵まれておきながら商業の匂いがしない。それは全ミュージシャンにとって理想のポジションではないかと思うのだ。

 もっとも、商業のことを本人がまったく考えないわけではないだろう。たとえば「Endless」は三井不動産レジデンシャルの「タイムスリップ!服部安兵衛」主題歌として作られた新曲。赤穂浪士のひとりが現代にやってきて騒動を起こすコメディ調のWeb映画だが、笑いの中にも「建物や街は、暮らす人々の愛情によって成熟し価値が増す」という企業PRが光っている。そのストーリーを受けて、斉藤は実にポップな、コメディに似合う軽やかなメロディを書き下ろす。歌詞も企業側の要望をよく汲み取っているのだろう。一粒の種が大木になり、切られて資材となり商品となり、人に愛されることによってかけがえのない財産になっていくストーリーだ。ただ、主語は建築ではなくヴィンテージギター。この瞬間、いち企業の理念は、立派な斉藤和義の物語になってしまう。このあたりが本当に上手い。

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