さやわかの「プロデューサー列伝」 第11回:指原莉乃

HKT48躍進を支える指原莉乃のプロデュース力 アイドルという“虚構”をハンドリングする才覚とは?

 後にHKT48劇場支配人となった指原莉乃の戦略は、本人がインタビューで語ったところに寄ると「覚えてもらうのがまずは重要」ということ。実際、彼女は自身の出演するテレビやラジオ、雑誌などのメディアでことあるごとにHKT48メンバーについてかなり具体的な言及を行っていることからも明らかである。彼女自身がバラエティ的なキャラクター性で世間の注目を集めたからこそ、パフォーマンス性はもちろんだが個人として認知されることを強く推奨していると見ることができるだろう。

 そうした「キャラ」重視のやり方は、膨大な数がいる今のアイドルシーンにおいて実に妥当なものだし、AKB48に限らず他のグループでも意識されていることではある。指原莉乃がAKB48加入前から熱心なアイドルファンであったことはよく知られているが、今のアイドルのキャラ的な面白さを知っている彼女だからこそHKT48の戦略があると見ることもできるに違いない。

 そして何より、彼女が優れているのはそのキャラを活かしながら恋愛スキャンダルを乗りこえたことにある。彼女はスキャンダル後の2013年にシングル選抜総選挙で1位となり、社会現象的にヒットしてAKB48を代表する楽曲のひとつとなったシングル『恋するフォーチュンクッキー』でセンターをつとめた。恋愛スキャンダルを経たメンバーが、名実共にAKB48のトップに立ったことは非常に重要で、恋愛スキャンダルにまつわるあまり意義深くもない報道合戦や卒業・脱退などに彼女は一石を投じている。この先も、アイドルの恋愛スキャンダルは決してなくならないだろう。ファンやメンバーが心を痛め困惑するような事件は続くに違いない。だがこの先に指原莉乃がさらに力を付ければ、そんな折にもベストな対処を行ってシーンを調停するネゴシエイター=プロデューサーとして立ち回ることもできるのではないかと思うし、今のアイドルに求められているのは、そのようにしてアイドルという虚構を虚構としてハンドリングできる名プロデューサーなのである。

■さやわか
ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』『一〇年代文化論』がある。Twitter

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