10thシングル『何度目の青空か?』を分析
乃木坂46の勝負作『何度目の青空か?』が担う使命ーーグループの目指す今後の姿とは?
まず、10thセンターの生田、8~9thセンターの西野七瀬がこの曲では3列目である点。2014年の締め括りに2014年センターを務めた2人がいないのは少し寂しい。また、「おいでシャンプー」の選抜メンバーは現在の10thシングルと選抜メンバーが16人中7人も異なっている。今や選抜常連組となっている秋元真夏、深川麻衣、若月佑美がいないほか、兼任中の松井玲奈ももちろんいない。乃木坂46の場合、表題曲をやる際にピンチヒッターの登場はあるものの、基本的にオリジナルメンバーで披露することが多い。そうしないと、乃木坂46の中で最も重要なイベントであるシングル選抜発表の意味合いが薄れてしまうからだ。
今、上り坂にある乃木坂46の最高の状態を見せるには、結局新曲の選抜メンバーで新曲を歌うのがベストなのかもしれない。そうなった際に、新曲「何度目の青空か?」は第65回NHK紅白歌合戦への出場という課題に加え、「君の名は希望」「おいでシャンプー」という2曲に太刀打ちできる作品にならなくてはならないのである。
「青春」という「時間」を切り取るアイドルとして
10thシングル表題曲「何度目の青空か」は、発表前からプロデューサー秋元康氏が“神曲”だと太鼓判を押すほどの自信作で、生田が初めてセンターを務める曲ということもあり、ファンから大きな期待を集めていた。かくして、リリースされた本曲は表題曲としては「君の名は希望」以来となる4つ打ちバラードになっている。サビの前と後で曲の印象がガラッと変わるのが印象的だ。シリアスでどこか不安を誘うキックとピアノの旋律で曲は始まるが、サビではティンパニの響きとともに空が開けるような歌声を聴かせてくれる。また、4thシングル表題曲の「制服のマネキン」に始まり、「世界で一番孤独なLover」「その先の出口」「ここにいる理由」、今回カップリング曲として収録されている「私、起きる。」などクラブミュージックも積極的に取り入れている乃木坂46だが、今回の曲も2度目のサビのあとからCメロにつれてEDMテイストな盛り上げからのブレイクダウンを加えている。そして最後は得意の転調からの大団円で、壮大な物語の幕が閉じられる。
詞は秋元氏が生田を意識して作ったのがよくわかる。10thシングルから復帰した生田は復帰後のインタビューで、外からグループを見ることで「自分が素晴らしい仲間と多くの特別な経験をさせてもらってることに改めて気づいた。」と語っている。その思いを代弁したこの曲から、乃木坂46として必死に駆け抜けてきた中で忘れていた何かを立ち止まり再確認し、新たな気持ちで出発するセンター生田の決意を感じることができる。
また、基本的に表題曲は「きみとぼくのストーリー」がテーマになることが多い乃木坂46だが、今回は他者との関係を歌った曲ではなく、自分自身の今を見つめなおすことがテーマとなっている。「何度目の青空か?」で示される今とは歌詞通り青春時代のことである。乃木坂46の魅力といえば、「私立女子校の青春」という時間を切り取った存在であることだが、10枚目に来て改めて初心に返り、乃木坂46の魅力を再確認する意味もこの楽曲には含まれている。
勝負の曲「何度目の青空か?」の魅力を真に理解するためには、カップリングを含めた収録曲にも目を向ける必要がある。鍵を握るのは「時間」だ。
松井玲奈を除いた10福神メンバーが歌う「Tender Days」と高校生ユニットの「私、起きる。」は、それぞれ「何度目の青空か?」で歌われる青春時代を軸にした「過去」と「未来」の楽曲である。「Tender Days」は昔通った喫茶店を舞台に青春時代に思いをはせる楽曲だ。過去を懐かしみ羨むことは誰しもあることだが、それをやわらかな乃木坂46テイストに仕上げることで悲しみや切なさがやわらいでいくように感じる。一方、「私、起きる。」は布団から出れない学生のための歌というよりは、眠れる乃木坂46の未来(=高校生ユニット)たちに覚醒を促す曲だ。彼女たちが起きた先に広がる世界こそが「何度目の青空か?」で歌われるような素晴らしい青春なのである。つまりこの2曲は出発点は違えど、青春を描いているという点で同じベクトルを向いているといえる。
乃木坂46らしさを体現するメンバーとして最も挙げられるのが、今作センターの生田であるように、今作全体のテーマは乃木坂46の魅力を再確認することにある。青春時代が過ぎ去った人にも、これから迎える人にも、そして今青春時代を過ごしている人にも青春の素晴らしさを語りかけ、その青春を切り取った存在である乃木坂46の魅力を感じてもらうことがこのシングルの目指すところなのである。
今作で乃木坂46は紅白出場を達成し、万人にとっての青春となることができるのか。その答えが出るのはもうすぐだ。
■ポップス
平成生まれ、音楽業界勤務。Nogizaka Journalにて『乃木坂をよむ!』を寄稿。