SMAPの新作は“実力派ミュージシャンの戦場”? 川谷絵音(ゲス乙女)、SALUなどの起用曲を分析

 一方、同じく初起用組のSALUも見逃せない。SALUと言えば、ユニークなフロウが持ち味の若手ラッパーである。SALUは今作において、香取慎吾のソロ曲「SKINAIRO」のラップ詞とコーラスを担当しており、したがって、この曲では香取がSALUのようなフロウを聴かせてくれる。この起用がまた、見事と言わざるをえない。言われてみれば、たしかに香取の不安定で線の細い声はSALU的なフロウに、すなわち現在の先鋭的なラップに非常に適しているのかもしれない。「SKINAIRO」のトラック自体はポップスとしてアレンジされたものだが、今後はもっと重くてテンポも落としたトラックで、香取の中毒的なラップの可能性が追求されて欲しい。

 このように『Mr.S』では、ここ数作のアルバムと同様、実力派ミュージシャンがしのぎを削る場としても機能している。初起用の川谷とSALUをクローズ・アップしたが、その他の曲も、カッティング・ギターが爽快なディスコ・ナンバー「DaDaDaDa」(作詞作曲:さかいゆう、編曲:宗像仁志)、「SHAKE」に連なる歌謡ハウス風の良作「ビートフルデイ」(作詞:大竹創作、作曲:☆Taku Takahashi、編曲:Mitsunori Ikeda&☆Taku Takahashi)など、聴きごたえ十分である。とくに今作は、「ビートフルデイ」を筆頭に、小森田実/CHOKKAKU路線をブラッシュ・アップした曲が多かった印象がある。どこまで意識的かはわからないが、90年代のSMAPが好きな筆者としては、この方向性をおおいに歓迎したい。90年代SMAPファンは、『Mr.S』を聴くべきである。

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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