宇野維正が『KODA KUMI LIVE TOUR 2014〜Bon Voyage〜』をレポート
倖田來未、再メガブレイクの日は近い? クールなパフォーマンスを見せたホールツアーレポ
そのバランス感覚は、MCにおいても同様。倖田來未といえば、あの親しみやすい関西弁の印象が強くあったので、もっとベタにオーディエンスを煽っていくのかと思いきや、集まってくれたオーディエンスへの感謝の言葉や、客席にいる子供たちへの気遣いなど、伝えるべきことをしっかりとした言葉で伝えて、あとはひたすらパフォーマンスに専念していく。そのショーマンシップ溢れる姿勢に、自分が持っていた彼女への先入観や偏見は吹き飛んでいった。
来年、デビューから15周年を迎える倖田來未。今回のホールツアーは、その15周年イヤーに向けての力強い助走といった意味合いも大きいのだろう。ヒットパレード的な内容というよりは、前半の白のイメージと後半の黒のイメージのコントラストの中で、最新型の倖田來未をしっかりとオーディエンスの目に焼き付け、過去でも現在でもなく、何よりも未来の倖田來未への期待を増幅させるステージ。この日は、8月6日にリリースされたばかり(ライブのタイミングでは発売前)のシングル『HOTEL』のカップリング曲「MONEY IN MY BAG」も披露されたが、自分が最も興奮したのはその時のパフォーマンスの問答無用のクールさだった。
「最近あんまりテレビで見かけなくなったなぁ」という世間の漠然とした印象と、現場における熱量のギャップというのは、過去にもいくつか例が浮かぶが、そういうアーティストは必ずと言っていいほど、しばしのタイムラグを経て、やがてその熱が世間にも拡散していく。2014年の倖田來未の現場には、まさにそんな再メガブレイク前の空気が充満していた。
■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter