永眠から7年——不世出のパンクギタリスト、CHELSEAの功績と人柄を振り返る

ジャパニーズスタイルハードコアという音楽性

 DEATH SIDEの音楽をメタリックと称しているのをよく見るが、メタリックと捉えられるのは日本のハードコアの先駆者の影響に他ならない。最初の頃のCHELSEAは海外や日本のハードコアを、それこそレコード盤がすり切れるほど聴き、手に入らない音源などはEXCUTEのギタリストLEMMYの家やLIP CREAMのメンバーの家に遊びに行って聴かせてもらったり、録音させてもらっていた。そうしているうちに他の音楽にも興味を持ち、ハードコア以外の音楽にも傾倒していった。

DEATH SIDE 1stアルバム「WASTED DREAM」

 DEATH SIDEの1stシングルや1st アルバムではまだハードコアやパンクからの影響が強かったが、2ndアルバムを作る頃になると、いわゆるビートルズを初めとするようなロックミュージックもよく聴いていた。中でもプログレには大きな影響を受け、PINK FLOYDやKING CRIMSONをよく聴いており、DEATH SIDE 2ndアルバム『BET ON THE POSSIBILITY』ではそういったプログレバンドの影響が色濃く現れ、コンセプトアルバムとしてレコーディングに1年間以上がかかった。

 そうして作り上げた2ndアルバム『BET ON THE POSSIBILITY』と、先に発売されていた1stアルバム『WASTED DREAM』は、メロディックなフレーズに泣きのギターソロを多用。そこにハードコアのヴォーカルと言うジャパニーズスタイルハードコアを生み出し、世界中にフォロワーを増やして行った。

2ndアルバム「BET ON THE POSSIBILITY」

 フォロワーの中でも有名なのはアメリカのハードコアバンドTRAGEDY、メタルバンドのCONVERGE、MUNICIPAL WASTEや、イギリスのハードコアバンドEXTREME NOISE TERRORで、彼らの世界での評価は非常に高い。他にもアメリカのDOROP DEAD、DISRUPT、9SHOCKS TERROR、スウェーデンのDS-13、オーストラリアのTEARGAS、DEATHCAGE、ドイツのBURIAL、ブラジルのデススラッシュVIOLATORなど、フォロワーは後を絶たない。アメリカ・ボストンのパンクロックバンドDROPKICK MURPHYSのメンバーも、DEATH SIDEのレコードを聞いていたようだ。

DEATH SIDE ライブ

 海外ではDEATH SIDEのカヴァーをやっているバンドも多数いて、アメリカのバンダナスラッシュと言われたWHAT HAPPENS NEXT、ギリシャのDIRTY WOMBS、シンガポールのMAGNICIDEなどの他にもたくさんいる。現在でも筆者は、海外に行った際に、DEATH SIDEのメンバーだったという事で沢山の恩恵を受けているが、それはこうしたフォロワーが多いからだろう。

DEATH SIDE解散〜その後

 LIP CREAM解散後の90年代にはジャパニーズハードコアシーンに衰退の兆しが見えたが、DEATH SIDEはBASTARD、鉄アレイといったバンドと共に全国ツアーや自主企画などをやり、シーンを活性化させようと活動を続けていた。

 その頃イギリスのパンクバンドCHAOS U.Kとのカップリングアルバムをリリースし、多数のオムニバスに参加、アメリカ・ボストンのレーベルDEVORからはシングル『THE WILL NEVER DIE』をリリースし、海外におけるジャパニーズハードコアというジャンルを確立した。

 そうした活動を続けていたが、95年にヴォーカルとの軋轢、度重なる揉め事、喧嘩によりDEATH SIDEは解散。後にPAINT BOXを結成する。DEATH SIDEの頃から思い続けていた海外進出を、2004年のPAINT BOXのアメリカツアーにより現実のものとした。

 PAINT BOXとして活動を始めてからは、DEATH SIDEの頃からあった奇行に拍車がかかり始める。アメリカツアーに初めて行く際、飛行機の座席にライターで火をつけ出発時間が遅れるなど、度重なる奇行は数知れないが、音楽面に関しては進化していて、若手バンドのプロデュースも手がけた。CHELSEAプロデュースのバンドという事で海外などに知名度を拡げたバンドもあった。DEATH SIDE解散後は縛られる事なく、CHELSEAの自由な音楽性を開花させていったようだ。

 ここには書けないような逸話もたくさんあるCHELSEAだが、そういった話は語り継がれて行くものだと思うので、実際に日本のハードコアのライブに足を運ぶなりして、彼を知る友人たちから聞いて欲しい。

 毎年8月17日のCHELSEAの命日には、CHELSEAの友人達が集まるイベントが行われる。CHELSEAの事が好きだった人も嫌いだった人も、この日ぐらいは彼のことを思い出してやって欲しい。

■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。
FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST

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『BURNING SPIRITS〜CHELSEAの日』

■イベント情報
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場所:新宿LOFT
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