『本日 小田日和』コンサート体験記
小田和正東京公演レポート “歌を届ける力”に9000人が歓喜
「みなさん、ようこそいらっしゃいました。東京ドームでコンサートをやってから、3年ぶりの東京のコンサート。時間が早く経つということは、なるべく口に出さないようにしています(笑)」という柔らかい語り口の挨拶のあと、演奏されたのは「やさしい風が吹いたら」。客席の端まで作られた巨大な花道を、目を離したらどこにいるのかわからなくなってしまうようなペースで移動し、小田は歌を届けていく。ウクレレを弾きながら歌った「この街」やCMソングとしてもお馴染みの「たしかなこと」、そして「3.11から1年後くらいに書いた曲です」という紹介とともに歌い上げた「その日が来るまで」と、小田の繊細で美しい歌声は会場を包んでいく。曲間の休憩はほとんどないのに、ハイトーンボイスが陰ることが全くない。場内がその歌声に酔いしれ、コンサートの前半は終了した。
後半は小田が東京の下町を巡る楽しげなVTRでスタートし、オフコース時代の楽曲を披露したほか、ステージ下に降りて、大興奮の観客の中を縦横無尽に移動しながら、彼の代表曲「ラブ・ストーリーは突然に」を歌い上げた。派手な演出は一切なく、ただ歌と演奏を丁寧に届けていく。しつこいようだが66歳の大ベテランでありながら、“歌を届ける”ということに対するストイックな姿勢と、ボリューミーなコンサートを完遂するサービス精神には感服した。本編最後のMCでは、「みなさん初対面なんですけど(笑)。僕の勝手な思いでしょうが、昔からみんなのことを知っているような気がします。なんだかうれしいです」と小田ははにかみながら語る。盛り上がる会場を文字通り端から端まで駆け抜けて、全22曲の本編が終了。ダブルアンコールでも5曲が披露され、会場に沸き上がる大きな拍手で3時間以上にわたる公演は終了した。
1970年のオフコースのデビューから44年。この日のステージには往年のファンはもちろん、世代を超えて長きにわたり小田和正が愛され続ける理由が詰まっていた。小田の音楽への精力的で誠実な姿勢は、リスナーたちに勇気を与えるのと同時に、後進のミュージシャンたちにとっても道標となっていくのかもしれない。
(文=岡野里衣子)