「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第2回 BiS『BiSなりの武道館』

BiS解散ライヴを徹底レポート あえて「立つ鳥跡を濁す」結末に

7月8日、横浜アリーナで解散ライヴ「BiSなりの武道館」を行ったBiS。

 BiSは伝説を残すことを拒むかのように解散した。「伝説の現場だった」と言う人もいるかもしれないが、BiSの4回目のライヴから見てきた私にしてみれば、「凄さ」で解散ライヴを上回るライヴは他に何度もあった。現在のプー・ルイ、ヒラノノゾミ、カミヤサキ、テンテンコ、ファーストサマーウイカ、コショージメグミの体制でもだ。しかし解散ライヴでのBiSは、一切のMCを排して約3時間半で49曲を歌い続け、最後の最後にとんでもない衝撃を残していったのだ。

 そのアイロニー、シニカルさこそ終わりゆくBiSの真骨頂であった。公演のサブタイトルの「騙された気分はどうだい?」とは、ジョン・ライドンのセックス・ピストルズ脱退ライヴでの言葉だが、それが今日のライヴを象徴するかのように。

開演前の横浜アリーナ周辺の様子。

 2014年7月8日、横浜アリーナでBiSの解散ライヴ「BiSなりの武道館」が開催された。会場の外には、研究員(BiSファンの総称)が本物の業者に依頼して献花台を設置。メンバー6人のために6つの花輪が立てられ、遺影や棺桶、果物籠まで置かれていた。献花する研究員の列は絶えず、ライヴで見たこともない異様な光景が展開されていた。

 メンバーが「チケットが1万枚余っている」と言っていたライヴだったが、蓋を開けてみれば、会場を狭めて使用したとはいえ、ほぼ満員に見える状態。スタッフからの諸注意の後、約30分遅れでライヴはスタート。まずBiSと脱退メンバーのナカヤマユキコ、ヨコヤマリナ、ミチバヤシリオが登場し、代表曲「nerve」が歌われた。

脱退メンバーを加えた9人編成で、彼女たちの代表曲「nerve」が披露された。

 その後、マネージャーの渡辺淳之介とプロデューサーの松隈ケンタが登場し、渡辺淳之介がキックとクラップを要求しながらクイーンの「We Will Rock You」を歌うという、忘年会の二次会のような状況に。諸注意をしたスタッフが「伝説になるといい」と涙ぐんでいたことといい、こういう内輪ノリが良くも悪くもBiSにはつきまとってきたな……と複雑な気分になったところで、ライヴのオープニング映像が始まった。

 ライヴはまずラスト・シングルの「FiNAL DANCE」から。会場には研究員を制圧すべく屈強な黒人セキュリティが多数配置されていたが、続く「プライマル。」で早くも研究員とセキュリティが揉め出す状況に。順調な滑り出しだ。これは最後まで延々と続くことになる。

 そしてライヴ開始後まもなく気づくことになったのは、「新しい楽曲から古い楽曲へと遡っている」という事実だ。そして、2012年の夏から2013年の春までの楽曲へ突入すると、脱退したメンバーを思い出し、胸が苦しくなりだした。

 今日のオープニングの「nerve」に現れなかった脱退メンバーはふたり。ひとりは順調にソロ活動をし、横浜アリーナにも花を出していた寺嶋由芙だ。彼女はライヴ活動も活発なので、いつでも会うことができる。ただ、もうひとりのワキサカユリカはパブリックな場に一切現れなくなった。BiSには「Hide out cut」という美しい名曲がある。ワキサカユリカ在籍時最後の楽曲だ。ライヴが進行していくと、欠けてしまい取り戻せなくなったものも浮きあがらせてしまう。これもまたBiSが抱えた罪なのだ。

横浜アリーナでも普段通りダイヴを試みたカミヤサキ。

 途中で休憩が入ったが、わずか3分間。ライヴ後半は必然的にさらに古い楽曲が歌われ、ノスタルジーと苦しさが入り混ざっていった。trfのカヴァー「survival dAnce 〜no no cry more〜」を聴いたときには、2012年9月23日の「おながわ秋刀魚収穫祭」で歌われたときのことを思い出した。瓦礫が撤去されて、3つの震災遺構が残る以外はほぼ何もない女川町で、さらにゲリラ豪雨を受けた後に、BiSも研究員も総力戦で臨んだライヴだ。あのときBiSは何のエクスキューズもなくライヴをした。そのBiSの姿勢は、メンバーが変わり、ステージからのダイヴを繰り返し、リフトアップされて研究員の頭上にメンバーが立つ現在も変わらない。同じようなことをするアイドルは別に他にもいるのだが、BiSが見る者に衝撃を与えるのは、同じことをしてもエクスキューズがなく、言い換えると無謀だからだ。それは、BiSと非常階段とのコラボユニット「BiS階段」を通して大きく進化した。歌唱やダンスについて決して高い技術を持っているとは言えないBiSだからこそ果たした「異常進化」だったのだ。カミヤサキは「IDOL」で横浜アリーナでもフロアへダイヴした。その一方、客席では研究員をセキュリティが羽交い締めにする光景も。修羅場である。

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