栗本斉の「温故知新 聴き倒しの旅」
湘南サウンドの代表格 ブレッド&バターの傑作『マハエ(真南風)』を聴く
そろそろ夏の気配。夏に聴きたい音楽というと、レゲエやラテン、そしてCHAGE and ASKA、ではなく石川優子とチャゲの「ふたりの愛ランド」ってところでしょうか(この曲、すでに30年も前の曲になるんですね……)。また、関東在住の方にとっては、“湘南サウンド”っていうのも夏の代名詞。神奈川県のベイサイドには昔から独特の文化があり、加山雄三やワイルド・ワンズに始まり、サザンオールスターズやTUBEなどのアーティストが生まれました。最近ではキマグレンや湘南乃風らも、この地から出てきたアーティストなわけです。いずれも確かに夏っぽいんですが、なんだかイケイケな人たちばかりなのはなんなんでしょうね。
しかし、ブレッド&バターは、ギラついたところもそれほどなく、こざっぱりとした湘南サウンドの代表格といえるのではないでしょうか。岩沢幸矢と二弓という兄弟によるこのデュオ・グループは、1960年代末から活動を開始し、今なお第一線で活躍するグループ。もともと岸辺シローとの共演作でデビューしたとか、スティーヴィー・ワンダーに認められたとか、いろいろと切り口は多いアーティストなのですが、彼らの音楽を聴いていると、そんな気負ったところは感じられません。むしろ、ゆるゆるな印象が強く、ふたりのハーモニーやアコースティックなテイストを感じると、潮風に包まれて昼寝したくなります。
さて、ここで紹介するアルバム『マハエ(真南風)』は、およそ40年前の1975年に発表された彼らの3作目。オールドロック・ファンにとっては、代表曲「ピンク・シャドウ」が収録されている前作『バーベキュー』の評価が高いし、テレビのタイアップなどで街でもよく聴かれるようになったのは80年代以降。なので、過渡期の作品といってもいいかもしれません。とはいえ、内容は今聴いても斬新。ファンキーなリズムがかっこいい「DEVIL WOMAN」に始まり、ゆったりとしたテンポでどこまでも広がっていきそうな「GOOD OLD DAYS」、ボサノヴァ風の「HIGHER」、ゴリゴリしたリズム・セクションに興奮させられる「MONAKA」など、とにかく歌とサウンドの一体感が見事。佐藤博(キーボード)、林立夫(ドラムス)、小原礼(ベース)、浜口茂外也(パーカッション)といった超一流のミュージシャンを起用していることも成功の秘訣でしょう。もちろん、メンバーアコースティック・ギターと歌声のアンサンブルは鉄壁です。