3D映像と生演奏がシンクロ 『フラッシュバックメモリーズ4D』が示したライブ表現の最前線

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事故後、GOMAは医師と妻からのすすめで日記を書いていた。

 レイヤーのもっとも奥、2Dの映像ではこれまでのGOMAの歩みが描かれている。1997年、24歳で単身オーストラリアに渡り、アボリジニより本場のディジュリドゥを習得。同年には妻・すみれと結婚もしている。2001年頃からは世界放浪を終え、拠点を日本に移して音楽活動を開始。クラブや野外パーティーなどで着実に知名度を上げ、2004年にはGOMA & The Jungle Rhythm Sectionを結成した。リキッドルーム、代官山ユニット、フジロック……数多くのライブをこなし、名実ともにダンサブルなリズムバンドとしての地位を確立した。しかし、2009年11月26日、突然事故は起こる。自家用車を運転していたGOMAは、後続車からの追突により意識不明の重体に。臨死体験の後に目覚めると、過去の記憶を大幅に失っていた。

「昔の写真やビデオを見ても、なんでみんなが笑っているのか分からない」
「自分は誰なのか? なぜ生きているのか?」
「記憶がどんどん消えていく」

 当時の日記には、GOMAが抱える苦悩が痛切に綴られている。バスや電車の乗り方が思い出せない。感情を抑えることが難しくなり、娘に暴言を吐いてしまうこともあった。初めて行ったと思ったそば屋は、何度も通っていた店だった。これまでまったく絵など描いたことがなかったのに、なぜか精緻な点描画を描けるようになっていたのは不思議だったが、それは救いにもなった。考えることから逃避するために、ひたすら絵を描く日々が続く。

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手を高く上げて会場を煽るGOMA。

 しかしその後、バンドのメンバーとともにスタジオに入り、ディジュリドゥを吹くと、勝手に身体が動いている感覚に気付いた。身体の記憶は生きていたのだ。以来、GOMAは身体に記憶を刻むように、ひたすらディジュリドゥを吹く。「事故さえも必然だったと受け入れてみよう」「不安に押しつぶされるなよ! 明日の俺を、僕は信じてるよ!」日記にそう書き綴ったGOMAは事故から1年5ヶ月後、とうとう復帰を果たした。GOMAはスクリーンの中から、今の自分に問いかける。「未来の僕へ。今日も笑顔で思いっきり楽しんでいるかい?」と。

 それに応えるように、ステージ上のGOMAがディジュリドゥを吹き鳴らす。パワフルな演奏は、過去に見た彼らのステージと比べても遜色がないどころか、より鮮烈さを増したようにさえ思う。今回のイベントを企画したスペースシャワーTVの映像プロデューサー・高根順次氏は、そのライブの魅力について「GOMAさんはひとつひとつのライブに対し、新鮮な気持ちで取り組んでいるのが伝わります。もしかしたらこの日のライブもいずれ忘れてしまうのかもしれませんが、そのことさえも前向きに捉えている印象です」と、記憶が残らないGOMAならではの姿勢を評している。また、3D映像とライブを同時に行うという発想については、「今回の企画は2013年5月に赤坂BLITZで行われたクラフトワークの3Dライブにインスパイアされているのですが、まさかここまで上手く機能するとは思いませんでした。モノ作りは100パーセント計算してできるものではなく、偶然性やアクシデントにも左右されるものですが、今回に関してはそれが良い方向に働いて、想像を越えるものに仕上がった感じです」と、3DのVJ映像に合わせて演奏することで新しいライブパフォーマンスの形を提示したクラフトワークの影響を明かした。ライブパフォーマンスの中にアーティストのストーリーがうまく組み込まれているという点においては、今回の企画はさらに新しい表現になったといえるだろう。

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GOMAのライブでは据え置き型と手持ち、2種類のディジュリドゥを使い分ける。手持ちの方はトロンボーンのように長さを変え、音程を変えることもできる。

 ひとりのアーティストが時間軸を越えてシンクロし、これまでにない音楽体験を生み出した『フラッシュバックメモリーズ4D』。4月18日には大阪・梅田AKASOでも開催される予定なので、この機会に体感してみてはいかがだろうか。
(取材・文=松田広宣)

4/18大阪公演! フラッシュバックメモリーズ4Dライブ トレーラー

■イベント情報
『フラッシュバックメモリーズ4D』
会場:梅田AKASO
開催日時:4月18日[金] 20:00開演
料金(税込):前売り¥3,800 / 当日¥4,300(税込/ドリンク代別/オールスタンディング)

e+/ローチケ(70301)にて

映画「フラッシュバックメモリーズ3D」

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