沖野修也が明かす“1万円でアナログ販売”提案の真意「録音物にはライブとは違う価値がある」

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ブログで明かした「1万円のアナログ盤リリース」計画については、「現在進行中です」と答えた沖野修也氏。

 

 DJ、プロデューサーや兄弟DJユニット「Kyoto Jazz Massive」として活躍し、東京都渋谷にある老舗店「THE ROOM」のプロデューサーとしても知られる沖野修也氏。彼が昨年末に自身のブログにアップした「僕がアナログを一万円で売ろうと思った訳」というエントリーが、現在も話題を呼んでいる。ネット上でも賛否両論の反応があり、その真意を確かめたいという声が多かった。そこで今回、当サイトでは彼の真意を探るべくインタビューを企画。前編では彼ならではの音源やアナログ盤に対する価値観について語ってもらった。

「僕は制作費をかけて妥協せずに作りたい」

ーー2013年末に沖野さんが書かれたブログ「僕がアナログを一万円で売ろうと思った訳」は、音楽業界への問題提起を含んだ内容で話題となりました。“音楽制作にはお金がかかる”ということがリスナーにあまり周知されなくなっている状況や、実際にお金をかけることが難しくなっていることを指摘するとともに、音源制作に対する沖野さん自身の考えが示されていましたが、改めてその時の気持ちを聞かせてください。

沖野:そもそも僕自身がDJということもあり、新作をアナログでリリースしたかったし、お客さんからの要望もあったんです。近頃「アナログが復活してきている!」って言われていますけど、弟(沖野好洋)からは「そんなことはない」って言われたんですよ。それは極端な話、売れているのは有名な人、もしくは話題盤だけなんじゃないかと。今は情報が氾濫し、有名志向がどんどん強まっていて、誰かのお墨付きか、メディアで取り上げられたとか、そういうものしか売れない時代ですよね。

 例えば、ブログ炎上の発端になった僕の楽曲『STILL IN LOVE』がiTunesでダンスチャート1位を獲得すると、“ダンスチャート1位”ということがブランドになってどんどん売れていくわけですが、TOP10にランクインしないと、まるで存在してないのと一緒になってしまう。アナログの復活、音楽配信の売り上げが上昇していると聞きますが、僕はまったく実感が湧かないんですね。たとえアナログを買う人が増えていたとしても、それは本当に著名なDJ/プロデューサーの作品だったりするので、僕個人にはまったく影響がありません。僕としては「クオリティを上げたい」「制作費をかけて妥協せずに作りたい」んですが、弟に相談してみたら、オーダー数が予想以上に少なくて、これはもうリリースできない、と判断するしかなかったんです。でも、実際に『STILL IN LOVE』をプレイするととても良い反応が返ってくるし、海外の著名DJがプレイしてくれていたりしているから、ポテンシャルは低くないはずなんです。しかし、いつしか聴き手は音楽に金銭を支払わなくなってしまった。

 さらに、ベッドルーム・ミュージックといわれる宅録音楽も、僕のようにフルオーケストラで外国人ボーカリスト呼んでリミックスまで制作して膨大なお金をかけた音楽が、同一の価格で販売されていることも疑問に感じています。かかっているコストがいくらであれ、売れた枚数がいくらであれ、価格が同じであることに対して、僕は疑問を抱いているわけです。そこで、価格を1万円に設定してアナログをリリースすることを思いついたんです。

ーー音楽を作るためのお金が、CDの売り上げから回収できない、ということですね。

沖野:悲観的になるつもりはないんですが、現実問題として、「これではもう作れないよ」というのが正直なところです。ブログにも書きましたけど、「じゃあ、僕は音楽活動をやめていいの?」っていう極論に達してしまう。ニーズがない、もしくはニーズがあってもお金が支払われないから。例えば、YouTubeの再生回数が10万回を超えていても、ダウンロード数は200~300の楽曲というのは普通にあり得るかもしれない。僕は作り手でありながら、消費者でもあります。レコードも買えばCDも買う、デジタル音源もダウンロードします。なぜそうするかというと、もちろん価値を認めているという側面もあるし、将来そのアーティストがまたより良い作品をつくるための投資、といった側面もあるんです。しかし、いまの消費者の多くは、アーティストがかけたコストや、アーティストの報酬をまったく想像すらしていない。近年ではプロ・アマ問わず、アーティスト(制作者)への投資サイトもできていますけど、一般的に普及しているとは言えません。好きなアーティスト、好きな楽曲に支払った額が、そのアーティストの次なる作品の資金源になっていることをわかってもらいたくて、あのブログのエントリーを書こうと思ったんです。

ーーそのような問題を強く感じるようになったのはいつくらいからですか?

沖野:僕はかつてフォーライフと契約をし、Kyoto Jazz Massive名義ではソニーから作品をリリースしています。1枚目のソロアルバム「UNITED LEGENDS」は、2006年にジェネオンから発売しているんですが、その当時は制作費に潤沢な予算がありました。2枚目のソロアルバム「Destiny」は、それから5年後の2011年にリリースしたんですが、そこから局面は劇的に変わりました。「Destiny」は「UNITED LEGENDS」の半分の予算で作ることになったんですが、まったくリクープ(回収)できなかった。

 イベントやフェスなどの収入もありますが、制作に費やしたお金が純粋にリクープできるかどうかという意味では、「Destiny」を境にほぼ絶望的な数字に変わりました。世の中的には高い評価を得ながらも、それが次の作品の資金源とはなり得ない。iTunesの総合チャートで3位までいったにも関わらず、制作予算をリクープできない、これは非常に由々しき問題なんです。

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