初音ミクはいかにして真の文化となったか? 柴那典+さやわかが徹底討論

 音楽ライターの柴那典氏が、初音ミクや同人音楽などボーカロイド文化の隆盛について、音楽史的な視点から考察した著書『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)が4月3日に発売された。今回リアルサウンドでは、同氏が先日4月6日に五反田のゲンロンカフェで行った、物語評論家のさやわか氏とのトークセッション『★さやわか式☆現代文化論 第6回『初音ミクの真実!』さやわか×柴那典』の模様を取材。テレビとネットの境目で発生しているコンテンツの移り変わりや、同人即売会におけるCDの売れ行きなど、様々な話題を存分に語り合った。

「30代より上と10代前半でものすごい文化の断裂がある」(柴)

さやわか:この本のおかげで、初音ミクについてわざわざ説明しなくても「読んでおいてね」で済むようになったので、非常に楽になりました(笑)。実際のところ反響はどうですか?

柴:嬉しかったのは、音楽業界とは関係のない大学の友人から「娘が初音ミクにハマって、本を買いたいと言ってる」ということで、娘さんから直筆の手紙が届いたこと。彼女は初音ミクにハマって、いろいろ調べたくなったそうなんです。手紙には「色紙にサインしてください」って書いてあって、超嬉しかった。初音ミクの本を出して気づいたのは、僕と同じ世代や40ちょいの人から「娘がハマっている」って聞くことが本当に多いこと。今、こんなにローティーンがハマっているものを目の前にすることって他にないです。

さやわか:探すほうが難しいですね。

柴:初音ミクって、どうしても黎明期のニコニコ動画のイメージが強いせいで、20代から30代の男性が好きな印象が持たれがちですよね。それはある意味正しいんですけど、今はむしろ10代の方がハマっているんです。しかも男の子よりも女の子のほうが多い。去年の横浜アリーナの『マジカルミライ』というイベントでは、僕は取材ということで「18歳以下限定」のコンサートに入れたんですけど、そうしたら、お母さんと一緒に来ている子が本当に多い。どうやら小中学生の女の子たちにとっては、クラスで話題になっていて、それについていくためにミクの曲を聴くっていう入り口が多いみたいです。

さやわか:こんど『一〇年代文化論』という本を出すんですが、ちょうど昨日にその本のデザイナーさんとお子さんについて話をしていて。その子は音楽を全然聴かないって言うんですね。でも「じゃあボカロは?」って訊いたら「それは聴く。それしか聴かない。ていうかテレビ見なくてニコ動しか見ない」って。そういうのって今、わりと普通だと思うんですね。

柴:実は今の日本って、30代より上と10代前半でものすごい文化の断裂があるんじゃないか、と思うんです。ボカロとか関係ない話ですけれど、つい先日、『笑っていいとも!』の最終回があったじゃないですか。ダウンタウンやとんねるずなど、お笑い怪獣たちが一同に介して話題となったわけですが、実は喜んでいたのは30代以降で、ひょっとしたら10代前半の子はそれほど関心がなかったんじゃないだろうか、と。

さやわか:そもそも、とんねるずがどういう存在なのかすら、10代にはもはやわからないでしょう。最終回の昼にビートたけしが出て、80年代について語りながら「テレビの絶頂期だもんね」というようなことをチラッと言ったんです。逆に言うと「いいとも」が終わる今は、すでにテレビの絶頂期がとうに終わっていることを意味している。テレビタレントの中でも一番偉いと目されているビートたけしがそう言うのだから、本当に「何かが終わったんだな」と思いました。実際、若い子はボカロしか聴かないしテレビも見ないでニコニコ動画を見ているという話を最近はよく聞きます。テレビコンテンツは一部のものしか届いていない状況かと。

柴:もちろん、ジャニーズやお笑いとか、そういうメジャーなエンターテインメントコンテンツは相変わらず10代に人気だとは思うんです。だから決して10代がテレビを観てないわけじゃない。だけどその一方で、どちらかというと中二病的な心を持った少年少女に、ボカロが刺さっているということはあるんじゃないかと思います。ちなみに、「中二病」って揶揄するような意味合いで使われることが多い言葉だけれど、僕はある種肯定的に使っていて。英語で言うなら「ティーン・スピリット」であるとも思うんですよね。

さやわか:先日、新房昭之監督にお会って、じん(自然の敵P)さんのカゲロウプロジェクトが原作の映画『メカクシティアクターズ』のお話を伺いました。そのときに仰っていたのは、「繊細な子たちが聴いているんだと思うから、繊細な作品にしたい」ということ。「いわゆる中二病みたいなやつですか?」と訊いたら、そうではなくて、もっとロック的な自意識だというんですね。つまり「人とは違っていたい」というツンツンした自意識で、それは「痛い」と言われるようなものなんだけど、中二病がこれだけ認知されて、柴さんが仰ったように肯定的な捉え方も出てきているから、今度はそういうロック的な若者の自意識も世の中に受け入れられてもいいのではないかと新房さんは仰るんです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる