J-POPの中心を目指す真夏のアウトサイダー 神聖かまってちゃん×川本真琴「フロントメモリー」レビュー

川本真琴 feat. TIGER FAKE FUR/アイラブユー

 神聖かまってちゃんは、2010年のメジャー・デビュー後もさまざまな物議を呼んできたバンドだ。メジャーから離れて己の道を進んだ川本真琴、そしてあえてメジャーにいながら様々な騒動を起こす神聖かまってちゃん。両者の才能やスタンスが呼応し、共感したことは想像に難くない。それぞれに「アウトサイダー」なのだ。

 「フロントメモリー feat. 川本真琴」では、の子とよく似た川本真琴の歌声が、の子自身ではないからこそ歌詞を生々しくえぐる。歌詞には「真夏日」が出てくるが、「夏」は神聖かまってちゃんにとって重要なテーマだ。「22才の夏休み」「23才の夏休み」「26才の夏休み」といった「夏休み」シリーズは、2011年のアルバム「8月32日へ」にまとめて収録されている。そして、今の神聖かまってちゃんはモラトリアムを終えて、「夏」の時間軸を意識的に進めようとしているかのようなのだ。さらに川本真琴が情感を込めて歌う「ガンバレないよガンバレないよ」という歌詞には、はみだしものたちの叫びを感じた。

 「フロントメモリー」は3曲を収録している。この3曲とも歌詞の舞台は夏なのだ。そしてどれもが、宅録とバンド演奏が混在しているかのような、混沌としたサウンドだ。

 特に「僕のHIP HOP」は、ザラザラとした音像が印象的。そして、「よお僕のヒップホップ / やあ僕のヒップホップ」というフレーズでのメロディー・ラインのソウルっぽさが新鮮だ。最後の「ハワイ」は叙情的なミディアム・ナンバー。ヴァイオリンの響きが美しい。

 2014年の神聖かまってちゃんは、年明け早々から「マニフェスト」を公開。その中でも注目を集めたのが4月から6月までのシングル連続リリースで、「フロントメモリー」はその最初を飾る作品だ。

 神聖かまってちゃんのスタンスを維持しながらも、より多くの人々へ作品を届けよう。そうしている矢先、の子がTwitterに壮絶なリストカットの写真をアップした。神聖かまってちゃんはどうなるのだろか……と不安にもなったが、リストカットぐらいでファンが離れるようなバンドではないだろう。「フロントメモリー」は、むしろそうした経緯ゆえに、さまざまな葛藤を抱えて生きるアーティストの音楽として、多くの人に受け止められるはずだ。

 汗まみれで生きる、本物の夏の季節が始まるのは、まだまだこれからなのだ。

■宗像明将
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1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。

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