ステージの姿はまさに“鬼神” ドン・マツオのオルタナティヴ・ロック20年を振り返る

 その後、数度にわたるメンバー再編成を経て、ドン・マツオ、マッタイラ(Key)、ムーストップ(B)のオリジナル・メンバーに、ピット(Dr)を加えた4人編成となったズボンズは、全曲新規録音という異例のベスト盤『Nightfriend of Zoobombs』をインディーズでリリース。12年には、通算10作目となるアルバム『THE SWEET PASSION』を日米同時リリースして、日本、アメリカ、カナダ、オーストラリアを、約半年かけてツアーして回るのだった。

「どうして僕らがこういう演奏形態になったかというのを考えると、それはやはり海外での活動の経験からなんじゃないかな? 海外で長いツアーをやると、どうしてもトラブルを避けられないし、疲れから故障して来る部分も出て来る。でも、この場所でこの人たちを前にして演奏する“次の機会”なんて、あるかどうかわからない。だから、どんなシチュエーションであれ、自分たちがどんな状態であれ、ともかく最善を尽くして目の前の人たちを驚かせてやろう、高いところまで連れて行ってやろうっていう。海外でライヴをすると、日本でやる以上にそういう共通目的をバンド内で強く持てるんだよね」(ドン・マツオ)

 そんな文字通り“オルタナティヴ”なキャリアを、レコード会社やマネジメントに頼ることなく、自らの手で--何よりも自分たちの鳴らす音楽の力によって築き上げて来たズボンズ。しかし、その彼らに、突如として危機が訪れる。昨年5月、ムーストップ脱退の意向が公式に発表されたのだ。そして、9月22日のライヴをもって、約20年続いたズボンズの歴史は、一旦その幕を閉じることになる。だがそれは、いわゆる“解散”とは、少々ニュアンスが異なっているようだ。ドン・マツオの言葉を借りるなら、バンドとしての“ライヴ(生命活動)の終わり”。それは、新しい生命体の誕生を意味する。かくして、ズボンズ最後のライヴのフロントアクトとして、ドン・マツオとマッタイラを中心とした新バンド、The Randolf(ランドルフ)がサプライズで登場、ズボンズ“直系”のサウンドを鳴り響かせたのだった。

 なるほど、今後はランドルフとして活動を続けて行くのだろう……誰もがそう思ったにも関わらず、年明け早々、ドン・マツオは自身3作目となるソロ音源の制作に着手する。もともとは、既に予定されていたソロ・ツアーに持って行くためのEPをイメージしていたようだが、それは結果的にアルバム『Magic Mountain』として完成する。しかも、そのバックを務めているのは、ランドルフのメンバーと……ズボンズを脱退したばかりのムーストップが、大半の曲でベースを弾いているという、ちょっと不思議な一枚になっているのだった。ブログの日記などでは、長年連れ添ったムーストップ脱退への戸惑いや苦悩を、赤裸々に綴っていたドン・マツオ。しかし、今回のソロ・アルバムから聴こえて来るのは、ズボンズ直系でありながらもどこか風通しの良い、ある種突き抜けたサウンドなのだった。これは一体どういうことなのか?

「それはきっと、僕の受け継いで来た音楽というものが、そういう形での個人の重さみたいなものを、表現しないものだったからじゃないかな? ローリング・ストーンズであれ、ボブ・ディランであれ、ブルースであれ、やはり音楽っていうのは、僕にとっては、何をおいても楽しいものであって欲しいから。そのためには、自分の我を前面に出して、すべてを自分が作り出すのではなく……それは、あくまでも自分が受け継いで来たものの変奏であり、今の自分のヴァージョンに過ぎないんだよ。音楽の現場で実際に起こっていることは、個人という小さな能力を超えたものであって、それこそビッグバンみたいなものだから。そういう意味では、“音楽を作った”という感じさえしていないかもしれない(笑)」(ドン・マツオ)

ドン・マツオ Magic Mountain
ドン・マツオ- 『Magic Mountain』

 そう言い残して、ライヴ・ツアーにーー現地の若いバンドの面々と、今回の楽曲はもちろんズボンズの楽曲などを、その場で合わせてセッションするという、一風変わったソロ・ツアーへと旅立って行ったドン・マツオ。その後には、ランドルフのライヴもいくつか予定されているようだが、その先のことは、まだわからないと彼は言う。すべては音楽の導くままに。しかし、ズボンズというバンドを長らく突き動かして来た衝動と情熱は、今も彼の中に沸き立っているようだ。そして、ステージにおける彼の“鬼神”っぷりも、相変わらずなのだった。3月2日に行われたライヴ、ソロ・ツアーの初日を観て、改めてそう思ったことを最後に報告しておきたい。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる