ブラーが来日公演で見せた新境地 再結成バンドの"終わらない物語”を追う

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 つらつらと名前を挙げてきたが、こうしてみると音楽ファンならば思い出すことは多いだろう。とくに好きなバンドの再結成には喜んだり、驚いたり、あるいは複雑な思いが湧いたり、いろいろあるはずだ。それと別にあるのは、比較的新しいほうだと思っていたバンドが再結成すると耳にした時に「ああ、あいつらが活躍してた頃から、もうそんなに経ったっけな?」と思ってしまうことだ。バンド再結成の報は、否が応にも時代の移り変わりを実感させてくれる。

 ただ、これは前回の日本編でもちょっと触れたが、再結成バンドは、なかなか新曲や新作アルバムを発表するまでに達しないケースのほうが多い。ブラーにしても、2009年以降にいくつかの新曲を単発で出してはいるが、アルバムを完成させるには至っていないのだ。実は新作アルバムは制作されていたようなのだが、そこに参加していたプロデューサーのウィリアム・オービットがブラーについて批判めいた発言をするなど、その具体的な見込みは霧の中なのである。その前に届くのは、デーモンの初のソロ・アルバムになりそうだ(過去に出た『ドクター・ディー』はオペラのための作品だった)。ちなみに今回のブラーのチケットを入手できなかった友人からはTwitterを通じて「フジに来ないでしょうかねぇ~」というメッセージが届いたが、うーん、それは……叶うだろうか。

 それにしても、若い頃にはあんなに毎年のように出していたのに、再び集まってからはなかなかアルバムという形にまで結実しないものだ。再結成バンドのリリースは、ほとんどの場合、過去作品の再発売や新装のベスト盤、BOXセット、ライヴ作品である。

 その理由はバンドによってさまざまだろうから、一概には断定できない。しかし再結成の場合、メンバーが別のバンドやプロジェクトと並行しながら関わっていること、音楽以外の仕事を持ってしまっている場合が多い。そうなると、仕事をひとつのバンドだけに注力するわけにいかず、お互いが顔を合わせる時間も限られるため、作品のリリースには時間がかかることが考えられる。しかも彼らの多くは「俺たちは終わったな」という気持ちを一度は抱えた時がある関係なのだ。それでももう一度集まってはいるわけだが、その中でお互いがインスピレーションを得ながら新しい曲を作っていくのは……過去の作品と比肩するだけのクオリティのものを創造するのは、決して簡単ではないだろう。いずれにしても、若い時分に結成した頃とは、メンバーの間に別の何かがあるはずである。

 今夜、客席にいた子どもたちは、果たしてどんな思いでパパやママとブラーを観ただろう。そしてあの子らが大きくなって、もしブラーがまだ続いていたら、その時には新しいアルバムが何枚か出ているだろうか? その中には、バンドの歴史に新たに加わっている名曲があるだろうか? 再び走りだしたバンドの物語は、そうそうには終わらない。ブラーのストーリーも、まだ続いていくのだ。おそらく。

■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT's IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。

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