ストップモーション・アニメは実写映画監督の新たな表現の場に? 『犬ヶ島』などの試みから考察

ストップモーション・アニメの可能性

『犬ヶ島』本編映像:DogZero(字幕入り)

 現在公開中の『犬ヶ島』は、そのタイトルの通り多くの犬が登場。ストップモーション・アニメーション作品では、通常はツルンとしたテクスチャーのパペットを使うことが多い。しかし、今回は犬の感情表現を豊かにするために、テディベアの、アルパカやメリノ・ウールの毛を刈り取り、動きのある毛並みを再現しているという。

「ウェス・アンダーソンは、ストップモーションアニメも、実写映画の感覚で撮っているところが多く、アニメーションとしては異質さを感じる絵作りになっています。スポッツをはじめとする犬たちも、いわゆるデフォルメされた“キャラクター”の可愛さとは違う、リアルさがあります。ゴミ処理場の“犬ヶ島”に隔離され、体を洗えなかったり汚染された空気に晒されているスポッツたちの、体毛がごわごわしている感じが伝わってきます。また、人間の髪の毛の質感だったり血液の流れだったり、あるいは食べ物に虫がわいているシーンだったり、少し気持ち悪いところまで丹念に表現されている。これは、やはり実写とアニメ両方を撮っていた、チェコの巨匠、ヤン・シュヴァンクマイエルの作風にも通じていて、実写とアニメの中間、どちらかというと実写に近い感覚の作品になっていると感じました。ストップモーション・アニメは、従来子供向けの作品が基本でしたが、近年は大人向けの内容が段階的に広く受け入れられ始めています。作り手も、子供向けだと思われてきた手法で大人向けの作品をやるギャップを楽しんでいるのではないでしょうか」

 繊細な動きや表情までも表現できるストップモーション・アニメーション。現状では、決して市場規模が大きいとは言えないが、実写とも、CGやドローイングとも違うひとつのジャンルとしてすでに高い評価を集めている。新しい映像作品が生まれる手法として、今後も注目できそうだ。

(文=若田悠希)

■公開情報
『犬ヶ島』
全国公開中
監督:ウェス・アンダーソン
キャスト:ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、野村訓市、グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクドーマンド、スカーレット・ヨハンソン、ヨーコ・オノ、ティルダ・スウィントン、野田洋次郎(RADWIMPS)、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリ
配給:20世紀フォックス映画
(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/

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